第14話:束の間の時

 崩れる瓦礫の音が響く。

 立ち上がる砂埃がその勢いを表していた。


 二人ともが己の手を見る。

 その手には確かにヤツの甲殻を砕いた感覚が余韻として残っていた。


「セラ!アイン!どうなったの?」


 ミヤビが二人の元へ駆け寄る。

 

「「わからん」」


「わからんって何よ!!」


 首を傾げる二人にミヤビがツッコム。

 

「でも確実に良いダメージは入ってると思う。な、アイン」


「だな。俺とセラの全力をぶつけたし、感覚も悪くなかった」


「じゃぁ、もしかすると倒しちゃった?」


 ミヤビは希望的観測を口にする。

 彼女の言葉に被災者の顔が明るくなった。


「っ!?皆さん、もう少し安全な所に行きましょう!」


 ニアが被災者を先導させる。

 倒した倒していない関係なく、沈黙が生まれている今の間に少しでも進もういう判断である。

 あとはミヤビが発した言葉に対するアフターケアも含まれていた。

 極限状態が続いていた人間に対して希望を持たせるような発言をしてしまうと彼らの緊張感が解除されてしまい、一気に収拾のつかない状況に陥ってしまうことが考えられた。だからニアはそうなる前に彼らを動かすことでその悲劇を避けようとした。


 後になって考えるとこれが一つの分岐点だったのかもしれない。


 歩き出す被災者、ニアがリューネにアイコンタクトを送る。その姿をみてリューネが動く。


「おい!取り合えず確認に行くぞ!セラとアインは休んでて良い。ミヤビはそのフォロー、俺とカイで確認に行こう」


「オレ、何もできなかったし確認ぐらいばっちしやってやるぞ」


 張り切って胸を張ってみせるカイ。彼の権能、強化聴力は0の脅威に対して相性が悪すぎた。そのため、共有される眼の権能と、アークによって強化された身体能力のみで攻撃をしのいでいた。そのため、彼の身体の至る所に傷がありアークの力で回復が始まっているとは言え万全の状況ではない。…そもそも、この戦場に万全な状態のやつ等存在しないのだが。


「カイ気を付けてね!」


「一応、気を付けろよ」


 幼馴染二人が心配の声をかける。


「心配すんな!ただの確認だろ?これくらいの仕事なんてやってみせるさ!」


 カイは笑顔で返す。幼馴染の不安感を一ミリでも解いてやろうという優しさであった。


「それじゃ、僕も少し休むからさ。リューネよろしくね」


「分かってる」


 セラの頼もしい仲間が返事する。

 確認に向かう二人はそれぞれ同じ隊のメンツに言葉を受け任務にあたる。


 彼らが向かった後、セラとアインは比較的凹凸の少ない瓦礫の上で寝そべっていた。


「アー怖かった」


「ほんと、死ぬかと思った」


「ちょっと、寛ぎすぎじゃない?」


 浮遊の権能で空から偵察するミヤビが寝そべる2人に声をかける。


「「だってさー」」


 緊張が完全に溶けてしまっている彼らはただの16歳の男の子でしかなかった。


「ミヤビ、カイたちの姿は見える?」


「ちょっとまってアイン。んーー、さっきまで見えてたんだけど見えなくなっちゃった。思ったより二人の飛ばした距離が遠いみたい」


 飛んでいた少女が降りてくる。


「はぁ私も疲れたぁ」


 初の出動でタフな戦闘を行い続け、これほどまでない緊張感の中でアークを使い続けてきた。いつガス欠になってもおかしくない。


「後は隊長たちの無事を祈るのとアズールさんの遺品を回収しないとな」


 身体を起こしたアインが動き出そうとした時。


「うわああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 これから始まる地獄を告げる叫び声がした。


 


 

 

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