第4話:語り

 男は笑みを零しセラとミルネを眼下に収めた状況で語り始める。


「5年前、ある事件が発生した。」


「「!?」」


 男の語り一言目で、戦闘をしているミルネの顔はより一層険しくなる。


 セラは男に視られたこと、自分の記憶に残る年月と被っていることが脳内で繋がる。彼は直感的に自身の過去に関わることだと思い、納戸色なんどいろの眼を見開いた。


 男はそれらの様子を全く気にすることなく、語り続ける。


「場所は北アメリカ連邦旧メキシコ地区。倒されたはずののエネルギー反応を示す謎の生命反応が生まれ、大災害が発生した。この災害は市街地が近くに無かったため一般人の被害は確認されなかった。」


「・・・黙って。」


 男が言葉を紡いでいくごとに、ミルネの顔が曇りを見せていく。


「まぁしかし、災害の対応に追われた協会は甚大な被害を受けた。多くの戦士が殉職、特級階級の戦士ルビア・アルティスの行方不明、【不滅の盾】の失踪。これが5年前に起きた災害の公式で公開された情報だ。」


「・・・黙りなさい。」


 彼女の見せる表情にセラは直視できず思わず目を逸らす。


「しかし、しかしぃ?・・・私は盟主に言われ驚きましたよぉ。彼は『不滅の盾は一人の子供を抱え失踪したのを俺は見た。その正体をお前は探し、確認しろ』と言ったのです。なので・・・私は、【不滅の盾】の力が行使されるの待っていたわけでございます。さすれば、その元子供の正体がわかると思っていましたから?」


「あんたたちっ!!!」


 空気が震えた。ミルネを中心に草木はなびき、厄災の靄は流される。


 目的がセラだと知ったミルネは、こめかみに血管を浮き出させ、男のことを睨み怒りの声で叫ぶ。


「おっとぉ、いいんですか?私は目的を達していますので良いですが・・・戦闘中、意識がお留守になっておりませんかぁ?」


「ッ!?」


 空気を割らんとするばかりの衝撃音が、辺りに響く。

 セラの視界から華奢な少女が消える。

 代わりに、厄災の靄に包まれた大猪のような異形が立つ。

 足元は勢いを表すかのように、地が抉られ、砂埃が舞う。


 彼女は初めて被弾をした。いや、衝突の方が正しいだろう。


 巨大な猪のような異形に対して華奢な身体は、音を置き去りにする勢いで家の壁に叩きつけられ、家が崩落する。


 セラはミルネの姿を求め、崩壊した日常の結晶の方向を見た。


 中から、光の装甲が割れ、元々寝間着で軽装だった服がボロボロになったミルネが現れる。

 3いる巨大猪のうち彼女に攻撃をしなかった2体が、何度も地を蹴り、砂埃を立て、攻撃突進の予備動作に入っていた。


「う、うそ・・・ハァ、ハァ、あのレベルはもう一級クラスよ?ハァ、ハァ・・し、しかも3体!?」


「流石【不滅の盾】ですねぇ。衝突直前にステップを踏みながら盾を張りましたね?中位レベルの戦士であれば今ので木っ端微塵になっていますよぉ。」


「ハァ、ハァ、その評価は・・・せ、戦士たちを・・・・な、舐めすぎだわ・・・。」


 衝撃を受けきれずダメージを負ったミルネは、息が枯れ、酸素が空っぽになった肺を、全身をいっぱい、いっぱいに、動かして酸素を身体に回そうとしていた。




(ああ言ったけど中位レベルなら間違いなくやられていたわよ・・・隙を見せた私が悪いけど、これ以上は不味いわね。セラにイージスを張ったまま一級クラス3体の相手はキツイわ・・・それでも、それでも!解くわけにはいかない!)


 彼女の状況は深刻であった。

 そんな中でも彼女は守る者のために立ち上がる。

 ダメージ回復のリソースを戦闘に回すため、集中を再開する。


 これから始まる死闘の前に覚悟を決め、ミルネは力を振り絞り再び光の装甲を創造する。

 そして、セラを、自身が護るべき存在を一瞥した。


「え?」


 ミルネは思わず二度見した。


 彼女は、この日、運命が動き出す瞬間を濃藍の眼に焼き付けることとなった。

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