閑話:ミルネは騙されやすい
本編より遡ること2年。
何の変哲もない日常の一幕。
僕、セラ・アルティスの叔母、ミルネ・アルティスは騙されやすい。
どれくらい騙されやすいかというと、僕が家の外にある花壇を壊して「森の鹿がやったんだ。」と分かりやすい嘘をついても「まっててセラ、必ず鹿鍋にしてやるわ。」といい、森へ走り出すこともあった。もちろん後で白状して、みっちり絞られたけど。
あと、街に買い物へ行くと大きな壺を買ってきて「これで、生活は安泰よ♪」と言っていたり、悪人の時間稼ぎのために無いものを探させられ、帰宅が遅くなったりもする。
こんな13歳の僕でも分かる詐欺の類にも、ミルネは騙される。
そのたびに僕が言う「騙されてるよ、ミルネ。」の言葉に彼女は石像のように固まり、後悔するのだ。
そんな彼女と過ごすある日、僕は久方ぶりに街に来ていた。
特に用事があったわけではないが、教会を円の中心とし、囲い覆うように並ぶ建物群、周りを見回す限りの森林や草原に囲まれた、陸の孤島のような街の雰囲気が好きで時折散歩しに来ていた。
ポケットに入れていたスマホが震える。
取り出すと、画面にはミルネの名が表示されていた。
「もしもし、ミルネ?どうしたの?」
『セラ、あんた今街にいるんでしょ?ちょっと洗剤が切れてたから買ってきてくんない?』
「わかった。」
『ありがと、よろしくね。あんまり遅くならないよう気を付けなさいよ?』
「わかった。わかったから。」
僕は強引に電話を切る。
―――もう13歳なのに心配し過ぎだよ。
僕は彼女からの任務を果たすため、店が集まる街のメインストリートへ歩みを進める。
街のメインストリートは両サイドにレンガで建築された建物が立ち並んでおり、建物の1階部分が店舗として扱われている。また、道に面した建物の窓から、壁にかけた花壇に水をやる人も見受けられた。日も高く昇り、照り付ける日差しが肌に刺さる。
「暑いなぁ・・・。アイスでも買おうか。」
日差しに負け、アイスの看板に吸い寄せられ店に入る。
店は、僕より一回り歳を重ねたような威勢のいいお兄さんが接客をしていた。
「お兄さん、バニラのアイス頂戴?」
「おう!待ってな!」
お兄さんは手際よく、僕が頼んだバニラのアイスを準備する。やはり皆、今日は暑いと感じているようで僕の後ろでもアイスのフレーバーを考えているかのような声が聞こえてくる。
「あいよ、お待たせ。」
「ありがと!」
「それじゃ、お代は・・・っと、よく見たらミルネさんのとこの子か、なら、いらねぇよ。」
「え?それでも・・・」
お代が要らないなんてダメだ、と思って思わず僕は食い下がる。しかし、お兄さんは笑顔で言葉を返す。
「いいんだ、彼女にはこないだ食い逃げを捕まえてもらったところよ。お礼しようにも『当たり前のことをしたまでよ』って言って行っちまうもんだから代わりに受けといてくれさ。」
「あ、ありがとうございます。」
「おうさ!」
後ろに待つ人のことも考え僕は少し駆け足で店を離れる。
「またかぁ・・・。」
その後も・・・・
「ミルネさんにお礼しといてくれ。」「前にひったくりを捕まえてもらったんだ!」「おねーさんに、ふーせんとってもらったの!」
次々とお礼を渡される。
僕が街に来るといつもこうだ。困ってる人を助けないと気が済まないくせに、それを当たり前といって礼を受け取らない。ミルネへの感謝を散歩中の僕が回収する。
僕は知っている。彼女は自分の感性に素直過ぎるのだ。だけど、プライドの高い本人に言うと間違いなく怒り、否定するのだと。
荷物を両手いっぱいに抱え街を歩く。暮れを告げる鐘の音が街に響き、僕の頭上ではカラスが「帰れー、帰れー」と鳴いている。
「そろそろ帰らないと・・・。あっ!洗剤!」
危なかった。僕は慌てて洗剤を買いに走る。両手に抱える感謝が溢れ零れないようにと細心の注意を払い店へと向かった。
「はい、洗剤、あとミルネちゃんへの感謝でもう一本おまけしとくね。」
店におばちゃんから致命傷を与えられ、苦しみながら帰路につく。
僕は帰り道で考える。この荷物を正直に伝えると、彼女はきっと機嫌が悪くなるだろうと。
まぁ、いつも通りでいっか。
そして家にたどり着き、両手のふさがった僕は、お尻を器用に使いドアを開ける。
「ただいまー。遅くなってごめん。」
「ほんと、いつまで歩いてんのよ・・・・って、また、その大荷物どうしたの?」
「あぁこれね、街でやってた、くじ引きで当たったんだ。」
もちろん嘘である。
「え!?また当たったの!ほんと、あんた運いいわよね!食材もいっぱいあるわ!ごちそうにしましょ!!」
彼女はその華奢な身体全身で喜びを表現させ、僕の荷物を小分けにして運び込む。
そんな姿を見て今日も僕は
ミルネは騙されやすい。
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