第3話 unexpected demona
中秋寒。
なかあき、かん、という。
クラスメート。
特徴。
……髪がピンク。
それだけって。
あんまり喋ったことないからよくわかんないや。
だけど、間違う訳がない。
「中秋君」
はっきりと、声に出すと、相手はずあざっと勢いよく後ろに下がった。
「は……春夏、なんで……」
ようやくわたしに気付いたのだ。
ああ。
わたしはほっと胸を撫で下ろす。
驚くのが当然よね。これで中秋君が平然と「俺はおまえがエンジェリーナであると、ずっと前から見抜いていた!」とか言った日にゃあわたしこの場で退職願叩きつけるとこだったからね!
危ない危ない。
「わたしが聞きたいよ! なんで中秋君がそんな格好してんのか!」
「おまえのぴらぴらの服の方がよっぽど問題あるだろ!!」
…………オーバッ!!
上司を振り返る。
「言われちゃったじゃない! 何とかしてよこのピラピラ!!」
「中間管理職に文句言ってもらっても困る」
上司は形のよい顎を少し引いて、反論した。
「あんたに言わないで誰に言うのよ!!」
……っと、矛先が、違う。問題はコスチュームどころの話ではないのだ。
「デーモナ!」
わたしはビシイっと中秋君を指差す。
「敵として、あなたを倒すわ!」
「躊躇えよ」
冷静な突っ込み。
いやね、わたしもわかってるのよ。
ここはおそらくクラスメートが現れたことを動揺して、もうちょっとかわいらしく、そう横座りに倒れこんで「わたし、この人とは戦えないっ」とか言うのが女の子らしくていいのかな、て思うんだけど。
思ったんだけど。
如何せん期末テスト後だし、できればさっさと終わらせて、寝たい。
付け焼刃のテスト勉強の為、わたしの睡眠時間はここ一週間平均六時間。
え、普通?
「さっさとエネルギー回収して、帰って、寝るわ!!」
「…………」
コメントしてよね!!
「ハルカ……こいつは、デーモナ地上部隊だ。ただの人間ではなく、どちらかというと、体そのものを悪魔に乗っ取られてしまったと、言った方が正しい」
「乗っ取られた?!」
じゃあ、目の前の中秋君は、中秋君じゃなくて。
「馬鹿言うなよ」
彼は、オーバの情報を一蹴した。
「天界じゃどんな噂になってんのかしらねーけど、ちゃんとした契約だよ。歩合制だし」
……。
給料……出るんだ!!!!
わたしがぐるり、とオーバを振り返ると、オーバは誰もいない空間を振り仰いでいた。
「使命だとか天啓だとかいってたじゃない。どーゆーことよ」
じっとりと、悪意をこめた声で、上司を問う。
「どうもこうも……」
給料が出るなんて聞いたこともない。
こいつ、絶対、使い込んでる!!
「最低!! わたし今日で辞める!!」
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいっ」
オーバがわたしの両腕を羽交い絞める。
「違うんだ!! 勘違いするな!! 中学生がバイトしたらまずいだろうと思って貯金してたんだ!!」
本気かよ!!
ってゆーかこれってやっぱりバイトなの!!
「じゃあ卒業したらお祝い金で全部ちょうだい」
「……」
じっとにらみ合う。
「…………」
オーバは視線を動かす。
何か計算しているようだ。
「わかった」
「なんなのよ今の間はー!?」
後ろで、微かな気配。
サシュッ
持っていた剣一振りを振りかぶって投げる。
「うっわ!!」
馬鹿な会話している間に、中秋君がエネルギーボールに近付いていた。
「取り込み中よ! 動かないで!」
「殺す気かー!!」
彼の絶叫なんてなんのその。
万年金欠の女子中学生にとって大問題発生だわ。
「オーバ」
「……なんでしょう」
自分でも冷たい目をしているのが良くわかる。
びびる上司。
そんなことでいいのか。
「デーモナ倒したら、ボーナス、出る?」
「でっ……だっ……出します」
よし来た!
改めて。
ビシイッ
中秋君を指差す。
「あなたを倒すわ!!」
「やっぱり戦うのか」
意外に落ち着いた答えが返ってくる。
「で? どうするんだ?」
中秋君は、剣を、取る。
……さっきわたしが投げた剣を。
迂闊!!
武器がない!!
「どうしよう!!」
気が昂ぶり過ぎているのか泣きそうになるわたしに、オーバはさっと自分の剣を空中で取り出し、握り締める。
「真剣に訊くな! 貸す!」
銀色の刀身輝く剣をわたしに渡す。
が。
「重い!!」
こんなもん持ち上がらない!!
そうこうしている間に中秋君は片手に剣を握り、駆けて間を詰めてくる。
「ぇぇぇぇぇぇぇえいあっ」
ガキイイィィィ
金属と金属が混じり合う音。
無理やり持ち上げたオーバの剣で薙ぎ払うと、勢いに重さが加わり、結構な力で中秋君を跳ね返した。
「チ!」
舌打ちし、膝を付いた中秋君が体勢を立て直す前に、翼を広げ、重い剣を持ったまま飛び上がり、落下する。
「うわあぁぁぁぁああ!」
勢いだけに任せた第二撃、ヒップアタック。
「おまっ、うわっ」
幸せに思え。
合掌。
「勝ったわね……」
中秋君が気を失っている間に、マッハでエネルギーボールを掘り返し、オーバーを送り帰し、家に帰る。
部屋でごろんとベッドに沈み、改めて、勝利を噛み締めた。
やればできるんじゃない、わたし。
わはは!!
「…………と」
中秋君の顔が浮かんだ。
幼稚園に置いてきたけど、大丈夫かな。
むくりと身体を起こす。
ぽりぽり、と髪の間を掻く。
チャリリリリリ……ン
夜道、自転車で、十五分。
自宅から近いもんだ。
激闘の跡を見に来る。
エネルギーボールを掘り起こしたため、土が盛り上がり、不自然に穴が開いていた。
中秋君は、見当たらない。
「さすがに二時間も経ってるからな……」
目を覚まして帰ったかな。
「春夏」
自分の肩が震えるのがわかった。
振り返ればそこにピンクの髪。
「こ……こんばんは」
「おう」
中秋君は学生服で、いつもの短ランにぶかぶかのヒップハング。
ぺらぺらの学生かばんを所持していた。
湿布の臭いがして、反省心が湧く。
「お……お疲れ様」
場違いな、というか、勘違いな挨拶をした。
「おう」
中秋君はただ、相槌程度に言うだけで。
お。
怒ってますか。
「今日は……」
「今日は、驚いた」
わたしの言葉を遮って、中秋君が言った。
「まさかこんな近くに、敵がいるなんて思わなかった」
うん。わたしも思わなかった。
「それが……よりにもよって……春夏だ、って、な」
……うん……。
うん?
「微妙なニュアンスですが」
「おまえはー……」
聞き直した私に、中秋君が脱力する。
首を折った彼に、まあまあ、と胸をノックする。
「普段はいいよね? 普通にしてても」
しばらくの沈黙の後、中秋君は、唇を歪めて、笑った。
「ただし、戦いは容赦しねーよ」
自信満々の不敵顔で言うから、言い返したくなる。
「何ッ! 今日気絶してたくせに!!」
「あれはおまえがあんなっ」
らしくないスピードでまくし立てる彼に、問いかける。
「あんな、なによ」
口を噤いだ後、言った言葉が。
「……重いから」
どんがらがっしゃーん
即自転車を卓袱台返し。
「なんだって?!」
仁王立ちで怒髪のオーラをたぎらせるわたし。
にやり、と彼は笑った。
「もーちょっとダイエットしな」
…………ゆ…………赦さん。
かくして彼とわたしの戦いは続くのである。
負けないっ!
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