第12話 龍ノ口の河童(グロ)

 こんな夢を見た。……今まで書いた夢の二分の一がグロ。なんで。


 僕は友人であるハヤトと連れ立ってたつくちへとむかう。龍ノ口は僕らの村にある大きな湖だ。滾々こんこんと湧き出る水は決して濁ることなく深く水の底までのぞき込むことが出来る。景色も良好で、結構立派な湖なのだがとくに特に観光名所として名が挙がることはない。龍ノ口の名の通り村で祀る龍神が住むという話で、そうそう外の人が足を踏み入れるべきではないという話だ。村の子供らも遊んだりするのに便のいい河川が他にもあるのでこの湖によりつく奴らはほとんどいない。

 さて、そんな湖になぜ僕らが足を運ぶかというと、この湖に河童がいるとハヤトが言いだしたからだ。

「夢ン中で見たんだよ、あの龍ノ口に河童が住んだんだって。俺のじいちゃん、夢に出てきて言ってたぜ」

 そんな話に付き合わされるこっちはたまったもんじゃない。でもハヤトは僕ならついてくるだろうと思ってこの話をしたのだし、僕だって彼が言うならついて行こうと思っているのだからしょうがない。これって相思相愛ってやつ? やめてくれ、気持ち悪い。

「その河童の肉を食うと不老不死になれるってさ。不老不死は別に要らねえけど河童、見てみたいじゃん」

「食うと不老不死になるのは人魚だろ。それに龍ノ口には龍がいるっていうじゃん。じいちゃんボケてんのか?」

「じいちゃん死んだのボケる前だって。ほら着いた」

 龍ノ口は今日も鮮やかに森の緑を映している。湖中に沈んだ倒木がそのままの形をとどめていて、ちらちら魚の姿が見える。ここまで澄んでいたら河童がいたとして一目稜線だと思うが、どうなのだろう。

 とりあえず僕らは湖周辺の道から中を覗き込んでみる。ハヤトは落ちていた木の枝をとり、何度か湖面を叩いてみたり、石を拾って遠くへ投げ込んだりしていた。そんなことしたら祟られると小さい頃よく聞かされていたものだが、よほど河童にご執心なようだった。

「おっ、いまなんか動いたぞ」

 ぐっと身を乗り出し湖を覗き込む。その時、足元の湿った落ち葉が滑り、ハヤトは湖中へと飛び込むような形で落ちてしまった。

「ハヤト!」

 どぽんと音をたてて一旦水中に沈んだハヤトだったがすぐ顔を出した。顔の水を拭い。あたりを見渡している。

「そっから上がってこれるか?」

「無理っぽい。つか水ン中にやっぱなんか」

 そう言った瞬間、ハヤトの体が沈んだ。水はこんな時も澄んでいて、ハヤトの様子がよく見えた。

 ハヤトは必死にもがいている。ハヤトの周りには森の緑に紛れ、なにか丸いものが二つ、まとわりついているようだった。もしやあれがハヤトの言っていた河童なのか?

 そいつは思っていた河童の姿とは異なった。球体のような体に水掻きのある細い手がついていて、それがハヤトの手足を押さえつけている。大きな二つの目が魚のように飛び出てぎょろぎょろと動いている。もっとも特徴的なのはその球体のような体の大半を占める大きな口だった。拳骨ほどもある大きな歯がいくつも並んでいて。ばくばくと動いている。その口がハヤトの足に食らいついた。水がたちまち血に染まる。ハヤトの口から空気があふれ出た。

 ハヤトの名を叫ぶより早く木の枝を手折り、僕も水の中に飛び込む。水の抵抗があり思うように動けない。河童の一匹がぼくの方に向かってくる。細い手を伸ばし、僕に食いつこうと大きな口を開けて素早く泳ぐ姿にぞっとした。

 水掻きのある細い指に左手を掴まれる。迫り来る口に右手に持っていた木の棒を振り回す。ずぶり、柔らかいものを突き破る感触がしたと思ったら、水全体が震えるような悲鳴が上がった。僕の持っていた棒が河童の目に突き刺さったのだ。河童の青い血が僕の方に流れてくる。ぐっと息を止め続けるも水面は遠く、息を吐きだしたとたんその血の混じった水も飲み込んでしまった。

 途端、僕に流れ込んできた水が、まるで空気のように何事もなく肺を満たす。力が沸き上がり、目の前の河童をぐいと押しのける。河童のぎいぎいとした悲鳴が耳に届くがそんなことにかまけている暇はない。僕がぐいと水を掻くと体がぐんと進み、ハヤトのもとへと何の抵抗もなくたどり着いた。

 ハヤトはぐったりと水の底へと落ちそうになっていた。もう一匹のかっぱがハヤトの足に噛り付いている。赤く染まった水を掻き分け河童に突進する。その丸い体にしがみつき、両手の爪を思い切りそのぎょろぎょろ動く目玉に突き立てた。

 河童はハヤトを離し、水の底へと消えていく。僕はハヤトを抱え、水面へと向かった。

「はあっ、ハヤト、ハヤト!」

 何とか地面に上がれるところに泳ぎ着き、ハヤトの体を引き上げる。名前を叫びながら体をさする。河童に齧られた足から血が止まらず、僕は着ていたシャツを裂いて足の根元を縛り上げた。

 そうこうしているうちにハヤトが水を吐きながら目を覚ました。足の痛みに体を縮め、呻いている。

 ハヤトのじいちゃんは何を思って河童の存在を告げたんだろう。ハヤトに不老不死になってほしかったのか? そんなことハヤトは望んでなかった。ただ河童を見てみたいだけだった。ハヤトの背中をさすりながら僕は考える。

 考えているうちに、お腹がすいてきた。


 なんだかハヤトがおいしそうに見えた。


  ***


2007/10/05

・河童の肉を食うと不老不死になる噂を聞いた友人に連れられ湖に行く。

・友人と湖の中に入り河童をつかまえようとしたが返り討ちにあう。

・私は助けに行ったが水中で自由に動けずもがいていたら河童の血が流れてきて、それを飲むと河童のように泳げるようになり友人を助けた。

・友人は河童に少し食われていた。

※河童のスケッチ(略)

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