第8話 闘技場にて師匠と(グロ)

 こんな夢を見た。……特に殺人願望とかは無いはず……。無い、よね?


 かつん、かつん。白く照らされた細い通路、軽い靴音をたてる師匠の後ろをついて僕は歩く。背の高い師匠の長く伸びた黒髪は一つに束ねられ、まるで尻尾のようにひょこひょこ揺れる。僕はそれを見るのが大好きだった。とても強くて、どんな相手でも一糸乱れぬその手腕で軒並み叩き伏せてしまう師匠は、髪を揺らさないことだってできるはず。だって僕と出会って間もない頃はそうだった。

『師匠の髪、尻尾みたいですね』

 そう言ったとき師匠は黙っていたけれど、それから間もなく、師匠は髪を揺らすようになった。ひょっこひょっこ、左右に揺れる尾を見ながらいつの日かきっと、師匠の隣に立てる自分を想像した。でもやっぱり、この背中を見ていたいので、僕は黙ってついて行くのだった。

 かつん、かつん。白いライトをいくつも過ぎる。ここは地下闘技場の裏通路で、師匠はここにいる人物に会いたいのだと言っていた。闘技場の雄叫びや観客の声援なんかちっとも届かない、窓のない通路。師匠の方からわざわざ訪ねるなんて、どんな人なんだろう。

 かつん。靴音が止まり、僕も慌てて立ち止まる。師匠の大きな背からそっと前を覗くと、師匠よりも背の高い筋骨隆々と言ったていの、頭を丸く反り上げた男と、猫のような耳と尾を持つ痩せた半獣人の男が立っていた。

「よう、なんだよお前ら。この先に用でもあんのかよ」

 半獣人の男はにやにや笑いながら僕らに話しかけた。なんだか嫌な感じ。

「この先にいるのはとおーっても偉いお方なんだぜ。お前らみたいなのが来るなんて聞いてねえがなあ、そうだろ」

「そうだなあ。ここを通りたきゃあ通行料でも置いてってもらわねえとな」

 スキンヘッドの男も嫌な笑いで絡んでくる。くだらない。師匠が来ることなんて、きっとこの先にいる人はわかっているはずだ。そしてその人は武術か、魔法か、なんにせよとても強い人。こいつらはただ自分たちが強いのをその人に見せるために、わざわざこんな所まで来て師匠に絡んでいるんだろう。きっとこの先にいる人はこんな奴らのことなんか知りもしないはずだ。くだらない。

退わっぱ。貴様らなんぞに用はない。私は行きたいところに行く。もそれを知っている」

 師匠は息をつくのももったいないといった風で奴らを適当にあしらう。そのまま歩いて行こうとする師匠の前に半獣人の男が立ちふさがった。

「おい待てよ。お前ら、俺たちのこと知らねえのかよ。態度がなっちゃいねえなあ。そんな奴ら通すかよ」

 ふう、と。馬鹿な奴ら。師匠は結構怒りやすい。

「弱い犬ほどよく吠えるものだ。いや、猫か。まあまったくどうでもいいな」

 師匠の手がするりと半獣人の男の顔を撫でた。するとどうだろう。そいつの頭はまるでスプーンの通ったカスタード・プディングのように滑らかな断面を見せた。師匠の手にはその半分がのっかっている。

「あ? なんだそれお前……」

 半獣人の男はそれっきり、ぱっくりと口を開いたままその場にどっと倒れ込んだ。スキンヘッドの男は慌てたようにその男の名前らしきものを叫んでいる。

「あとはお前がやれ」

 師匠は手の内にある頭のかけらを投げ捨て、僕にそう言うとスキンヘッドの男の後ろを悠々と通りすぎた。男は師匠の方を見てひっと声をあげ、反対の方、つまり僕の方へと逃げようとした。

「はい師匠」

 僕は答えると荷と一緒に背負っていた棍棒を振り下ろした。硬く、重く、鈍く輝くそれはスキンヘッドの男のつま先を叩き潰した。男はギャッと悲鳴を上げる。ああ、うるさい。

「泣かないの、男でしょ」

 蹲る男に僕は棍棒をふりあげる。一撃、一撃、また一撃。僕は棍棒を振り下ろす。真っ白な通路が赤い血に染まる。綺麗だ。服が汚れるのがいただけないけれども。

 振り下ろす棍棒の先から水音しかしなくなったので、返り血に染まった服を脱ぎ棍棒を拭う。これから師匠が会う人が誰かは知らないけれど、綺麗に着替えた方がいいだろう。あ、通路を汚してしまったのを怒られるだろうか。でも師匠だって、半獣人の男をそのままにしていった。多分、誰かが片づけるんだろう。僕がやると汚れがひどいから、もし会ったら謝らないと。

 肉塊をなるべくひとまとめにして、僕は慌てて師匠を追った。緩く曲がった通路の奥の扉の前で、師匠は僕を待っていた。僕が走ってくるのを見ると、扉を二、三ノックする。僕が息をつく間を待たず、その扉は開かれた。

「いらっしゃい。待っていたわよ」

「こまい輩にからまれた。警備がなっとらんぞ」

 扉の奥にいた人はとても綺麗な女の人だった。波打つ金髪に彩られたその顔は薔薇色の唇に緑色の目がきらきらと輝いていて、その笑みが僕に向けられた時も、僕はぽかんと口を開けたまま突っ立っていた。

「かわいい坊や。お弟子さん?」

「そう思ってたのだがな。これだとただの小間使いが精々だ」

 慌てて口を閉じる。そんな僕を見て女の人は笑い、部屋に入るよう促した。師匠と何か会話をしているようだったけれど、心臓がばくばくいって煩いので、何を話しているのか全く聞き取れなかった。


  ***


2007/8/某日

・大きな闘技場の裏通路を師匠と二人で歩いていた。師匠は長い黒髪を一つに束ねた背の高い男性だった。

・かなり体格のいいスキンヘッドの男と猫の耳と尻尾の生えた細身の男の二人組に絡まれた。

・適当にあしらわれて怒った猫の男の頭左半分を師匠が素手でえぐり落とした。猫の男は頭が半分なくなったことに数秒気がつかなかったが結局死んだ。

・私は逃げようとしたスキンヘッドの男を棍棒で滅多打ちにした。

・そのあと、師匠は金髪の美女と何か話していた。

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