第5話 掌編集 1

 いろんな夢を見た。


 1 蠢く氷


 夏、日影になった畳の上でのんびりと寝そべる。冷たい麦茶が飲みたい、そう思ったとき、ひんやりと冷たい感触が指先に走った。

 おや、なんだろう。手のひらをそっと握りしめる。氷のような冷たさ、それに反する柔らかななにかが手の内で蠢いている。夢うつつの思考から覚め、すわ何事かと思い、勢いよく飛びあがる。見てみると、親指ほどの太さの透明ななにかが蚯蚓みみずのように身をくねらせていた。

「ひっ」

 手を広げ振るっても、それは私の手から離れない。柔らかな氷のようなそれは人さし指に絡まり、つぷりと私の中に入ってきた。

 きん、と骨の芯から凍るような感触に、全身鳥肌が立った。蚯蚓のようなそれはどんどん私の指に入って行き、全てが身の内に収まる頃には、もう歯の音も会わぬほどにがちがちと震えが止まらなかった。

 私は日の光を求めてばたばたと畳を這いずる。しかし日の中に出ると、私の指先が透けているのに気がついた。指先から手のひらへ、腕へ、胸へ。体がどんどん透明になっていき、さんさんと照る日差しの元、私は氷のように溶け崩れていった。


  ***


2007/4/1

・水みたいな虫が入ってきて、透明になって溶ける。手と同じくらいの大きさで、太さは親指くらい。触感は柔らかい氷。


  ***



 2 ガラスの道


 ぴし、ぱきん。ガラスの割れる音が響く。一歩、また一歩。私の足跡が赤く残る。痛みはなく、ただひたすらに悲しかった。なにが悲しいのか分からないのが、余計悲しかった。

 ぴし、ぱきん。ガラスの割れる音が響く。私は悲しい。ガラスの破片が身を裂くことより悲しいことはなんだろう。思考を置き去りに、歩みは止まらない。

 ふと、目の前に男がいることに気がついた。深い藍色のスーツを着た、見知らぬ男だった。なのになんだろう、先ほどまでどれほど悲しくても出なかった涙が、頬をつたう。温かかった。

「もういいの」

 私は聞く。

「もういいよ」

 彼が私を抱きしめる。嗚呼、私は赦された。


  ***


2007/4/20

・ガラスの破片の上を悲しい気持ちで歩いていたら、男の人が来て抱きしめてくれた。


  ***



 3 橋と地蔵と猫の霊


 町と森の間には赤い橋が架かっている。特に川がある訳でもなく、ただ深い溝が町と森とを断っていた。赤い橋の両端にはお稲荷さんだろうか、狐の像がそれぞれ町と森を睨むように乗せられていた。

 それだけではない。赤い橋の上には大人たちが「身代わりさん」と呼ぶお地蔵さまがいくつも並んでおかれているのだ。しかもそのお地蔵様、森の方にあるものには頭がない。そんなもんで、この町の人間は、森の方へはめったによらない。子どもにいたっては橋のそばにすら近づこうとしない。ここはそんな町だった。

 ある日、橋の向こうを見るとたくさんの猫がこちらを見ていた。

「へえ、猫の霊だ。多いな」

 見ると隣に藤色の着物を着たおじさんが立っていた。おじさんは濃い紫の柄を持つ煙管を少し吹いた。すると煙管から奇妙な音というか、曲のようなものが流れてきた。

 橋の向こうの猫たちに、それが聞こえたのだろうか。ひげがぴくりと動き、一斉におじさんの方を見る。そうしていると少しずつ猫たちの体が薄くなっていって、すうっと上へと昇っていく。

「これでおしまい」

 おじさんは煙を吐くと、いまだゆらゆらくすぶっていた猫たちは煙と同時に姿を消した。


  ***


2007/9/3

・森と町をつなぐ赤い橋に町の人たちが「身代わり」と呼ぶ地蔵がある。森側の地蔵には頭がない。橋の両側に狐の像がある。

・森側の橋のたもとにたくさんの猫の霊がいた。紫の柄の煙管を吹くと奇妙の笛のような音が流れて霊を成仏させる。それでもダメなら煙を吹きかける。


  ***



 4 燃える暖炉の温かさ


 見知らぬ大勢の大人がいる部屋で、小さな私は暖炉の傍に置かれていた。暖炉の火は赤々と燃え、青い部屋の壁や床を照らす。天井の明かりは点いておらず、暗かった。

 23時55分。いつもならとっくにママからおやすみのキスをもらってベッドの中で眠りにつく時間だ。しかし、大勢の大人たちは人数の割には小さなぼそぼそとした声で話し合っている。話を聞き取ろうとするが、言葉が理解できなかった。

 そんな私に向かって話しかけてくれる女の子がいた。長いくるくるとした金髪の可愛らしい少女は私には分からない言葉で話しかけてくる。一冊の本を手に、私と自分とを交互に指差し、暖炉の前へ座った。私も、彼女の傍に座った。

 少女が持っていたのは絵本だった。小さな男の子が、不思議な国に迷い込んで大冒険をする物語らしい。なんだか自分がこの男の子と同じだと思った。


  ***


2007/9/13

・外国の部屋?青っぽい壁と床で暖炉には火がついている。時刻は23時55分。電気はついていない。

・大人が何人かと子どもが私を入れて2人。私以外全員外国人。

・女の子と一緒に暖炉の前で小さな男の子が不思議な国に迷い込んで冒険する物語を読んだ。


  ***



 5 輝く動力源


 美しい宝石を手にいれた。密林の奥を探り、深く海底に潜り、いくつもの怪物や略奪者の手を掻い潜り、やっとの思いで手にいれたそれは金に緑に青に輝いていた。

「これは不思議だ。金とエメラルドとラピスラズリ。繫ぎ目もなく完璧に混ざり、ひとつの宝石になっている」

 それに、なにかの魔法の匂いを感じる。そう言うと探し屋をやっている友人は一つの古びた台帳を手に取った。

「ああ、これだ。先々代からの依頼品。これはただの宝石じゃない。船の動力源だ」

 ほら、そう言って彼は一枚の写真をよこして見せる。そこには宝石に負けず劣らずの美しい船の姿があった。手すりは金色、船体は星の散る青。そこにはエメラルド色の魚が幾匹も泳いでいた。ふと、この写真がモノクロームなことに気づいた。そんな写真からでも、この宝石のような美しさは真に目で見たかのようだった。

「なあ、この船、動かしてやってみたくないか」

 友人はにやりと笑ってそう言った。


  ***


2007/11/2

・金とエメラルドとラピスラズリが混ざった宝石を手にいれた。

・魚の模様の描いてある船に乗る。あの宝石が動力源らしい。

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