第一章

第2話 時間跳躍した魔王

「魔王様? 魔王様、大丈夫ですか?」


 それから、俺様は気が付くと死んだ筈の部下に声をかけられていた。そいつは、魔王軍が結成された当初に居た幹部の一人である『魔王騎士団団長カイゼル・ディサーベル』と言う悪魔族の者であった。


「ん、カイゼル? 何でお前が居るんだ?」


「あ、え、はい? 私は、魔王様に忠誠を誓った者ですよ? だけど、魔王様のお隣に居たら不自然でしょうか?」


 カイゼルは、身体をモジモジしながら俺様の方を眺めていた。だが、それよりもこの感覚は死後の世界に居ると言うより過去に戻っている様な感覚だな。それに、何で死んだ筈のカイゼルが息をしているのか理解に苦しむ。


 確かではあるが、カイゼルが生きていると言う事は何処も侵攻してない時期に戻ってると言う事だな。何故なら、カイゼルは魔王軍として初めて侵攻する時に命を落とすからだ。


 今思い出すと、俺様はカイゼルが死んだ事で次に就任した団長やその次の団長も弱くて無能で役立たずだったのを理由に魔王騎士団を解体したんだったな。


「あの……。魔王様?」


「ん? あ、いや、別に冗談で言ったんだ。気にしないでくれ」


「で、ですよね!? 良かったです」


 カイゼルは、俺様の言葉が冗談だと分かると安心感したかの様に溜め息を大袈裟に吐いていた。やはり、カイゼルが生きていると言う事は俺様は過去に戻ったのだろう。


 それに、自分の身体や周りの物などに触れると生きていると言う感触を味わえた。だとしたら、先程まで勇者一行と戦っていた感覚は何だったんだ?


 それに、俺様は魔王城にいた筈なのに今は森の中に居る。そう言えば、この時期は魔王城がまだ完成されてなかったな。だから、この森の中で軽く住居を作ったんだった。しかし、俺様は確かに不思議な石の力で勇者一行に敗れた事を覚えている。


 だが、今は過去に戻って死んだ筈の仲間と話している。もしかして、これこそが死後の世界って奴なのか? それにしても、この感覚は生きているとしか思えないんだよな。


「そうだ!」


「ま、魔王様!?」


 俺様は、近くに大きな木が目に入ったのでその木を目掛けて本気で殴った。すると、その木は壮大な爆発音と共に崩れ落ちた。そして、カイゼルは慌てた様子で俺様に近寄ってきた。


 あぁ、こんな爽快感を味わったからにはこれが現実である事を認めないといけないな。それに、殴った拳からは湯気が出ているしジンジンする。


「おい、カイゼル」


「はい。何でしょうか?」


「今は神暦何年何月何日だ?」


「え、今は『神暦1000年3月19日』です」


「そうか……。やはりな」


 不思議だが、俺様は過去に戻った実感が湧いてきて面白く感じた。だとすれば、俺様は勇者一行に殺される五年前に戻ったと言う事が分かったな。


 そうだ、この五年間で俺様の部下は次々と倒されていった。そして、五年後には勇者一行に敗れてしまうって事だな。


「魔王様、どうしたんですか?」


「確認の為だ。良く言うだろ? 『1000年に一度、この世界に勇者が誕生す』てな」


「あ、そう言う事だったんですね」


 俺様は思い出したぞ。この世界では、千年に一回だけ他の世界から救世主が転移してくる事をな。しかも、その転移の仕方を知っている国がどれだけ我らにとって厄介なのかも痛いぐらいに思い出した。


「ふふふ……。ふはははは!!!」


「ま、魔王様!? 大丈夫ですか!?」


「カイゼル!! 面白くなったな!!」


「そんな事を言われましても何の事かサッパリですよ!?」


 俺様は、とても気分が良い。それに、久しぶりの部下に出会えたんだ。だから、カイゼル達が生きている世界線をこの俺様が実現してやろうではないか。


「そうと決まれば、やる事は一つだな」


「魔王様?」


「カイゼル、明日の作戦は俺様一人で行かせてくれ」


「え!? 駄目ですよ!? 魔王様を一人で迎わせるなんて無理です!?」


「そう言うな。俺様だってな、自分の実力を確かめたいんだ」


「な、なら、私も同行します!! そして、邪魔にならない様にします!! だから……」


「駄目だ。これは、魔王軍にとっての記念の日になるんだ。そんな時に、部下に任してられるかよ」


「そ、そんな……。折角、折角、やる気になれたのにぃ〜」


「カイゼル!?」


 カイゼルが突然泣き出した。俺様は、慌ててカイゼルの兜を外して涙を拭こうと思った。すると、カイゼルは女性の様な美しい顔立ちや綺麗な瞳をしていた。


「お、お前、女だったのか?」


「ふぇ〜ん!! 女だったのかって、知らなかったんですかぁ〜!?」


「す、すまない。お前は、ずっと兜で見えなかったから分からなかったんだ」


 やばいな、今までカイゼルが女の悪魔だったとは分からなかった。しかし、カイゼルがこんなにも本気で居てくれてるんだ。ならば、カイゼルと一緒に行くしかないかもな。


「カイゼル、俺様はお前が居なくなるのが嫌なんだ。それに、女だと分からなかったと言う事はそれだけ勇ましい奴だと言う事だぞ」


「ほ、本当でしゅか?」


「あ、あぁ、だからさ、鼻水拭けよ」


 そう言えば、俺様は部下の事を何一つも分かっていなかったな。だって、カイゼルが女だった事が分からなかったんだ。だから、作戦に関しては俺様がちゃんと戦況を観てやらないといけないな。


「カイゼル、お前がそこまで言うなら行かせてやる。だが、足だけは引っ張るなよ」


「あ、ありがとうございます!!」


 カイゼルは、とても喜びながら鼻水を拭いていた。まぁ、拭けきれずに垂れているがな。それにしても、カイゼルがこんなにも可愛い女だったとは死なせるのが勿体無いな。


 だったら、俺様はカイゼルが死なない様に立ち回りながら成功に導くとするか。そして、俺様は魔王軍を拡大していきながら世界征服を目指してやる。これが、俺様の目標だ。

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