第3話 思い返す魔王
それから、俺様はカイゼルと共に夜の森の中で野宿していた。そう言えば、この時の俺様はカイゼルの事を気に入ってるから側に置かせてカイゼル以外の騎士団員は魔王城の建築作業に専念させてたな。
だが、侵攻させる時に魔王城が完成した事を聞いたからカイゼルに任せて呑気に魔王城を確認しに行ったんだったな。やっぱり、あの時の俺様は馬鹿だな。だってよ、此処まで来たんなら普通は一緒に行く筈だよな。
なのによ、カイゼルを置いて完成したばかりの魔王城を見に行くなんてあの時の俺様は本当にどうにかしてるぜ。だけど、明日は俺様とカイゼルの二人で精霊族が住んでいる『大樹の町クロンティーナ』に攻め込むんだ。
あの町は、悪魔族を滅ぼす為に作られた道具を管理しているそうだ。しかも、その道具は町のシンボルである大樹の中に保管されているとの事だ。だからこそ、俺様はそれが気に食わなくて一刻も早くぶち壊したかった。
しかし、カイゼルや他の奴らに任しても思い通りにはいかなかった。そして、いつしか断念してしまった。だからこそ、今回は俺様がこの目で失敗した理由を探ってやる。そして、何が何でも精霊族を滅ぼしてやる。
「魔王しゃまぁ〜。むにゃむにゃ」
「何だ、寝言か」
なんか、カイゼルの寝言は可愛いな。そう言えば、カイゼルとどうやって出会ったか覚えてないな。なんか、気付いたらずっと隣に居たって感じだったからな。
だけどよ、カイゼルは悪魔族で人間から嫌われている存在なんだ。それに、俺様も悪魔族でありながら王になる程の実力を持っている。それなのに、今まで呑気に旅ばっかりして遊んでたな。
そう言えば、そんな旅の途中にカイゼルと出会ったんだったな。その時のカイゼルは、盗賊団と言われる人間達を殺していた。それが、カイゼルにとって初めての人殺しだと本人から告げられた。
しかも、カイゼルはその人間達に奴隷として売られる予定だったそうだ。だから、俺様は許せなくてカイゼルを引き取った。そして、剣術を鍛えさせて魔王軍直属の『魔王騎士団』を作った後に団長に任命した。
それからも、他の悪魔族の奴らも人間に恨まれたり殺されかけたりしている。だから、俺様は仲間を集めて魔王軍を設立して世界征服を目指す事にしたんだ。今思い出せば、俺様は魔族が生きやすい世界にする為に世界征服を目論んだったんだな。
だけど、俺様が権力や能力に溺れた事で自分の事しか考えなくなってしまった。だから、今度こそは自分に溺れる事が無い様に心がけないといけないな。
後は、勇者が最後に使った赤色の石がどんな物なのかが気になる。何故なら、俺様は鑑定スキルを使って調べたのに黒い霧で隠されていたから対処できずに死んでしまった。
もしかしたら、精霊族が赤色の石を管理しているのかもしれないな。だから、まずは人間に加担する精霊族を撲滅してやる。そしたら、少しは世界征服に向けて前進できる筈だ。
「あれぇ……。魔王様? もう起きてたんですか?」
「もう? あぁ、もう朝になってるな」
空を見たら朝になっていた。まぁ、とにかく勇者よりも先に赤色の石を見つけて解析しておく必要があると言う事だな。
「魔王様、準備が整いました」
「分かった。よし、今から出発するか」
「そうですね。行きましょう」
そして、今起きたばかりなのにあっという間に準備が整ったカイゼルと共に出発した。しかし、ここから目的地まではかなり時間がかかってしまう。まぁ、今は朝の五時頃だから丁度良い時間には着くだろうな。
「あの……。魔王様?」
「ん、なんだ?」
「今更ですけど、何で私だけを連れて行く事にしたんですか?」
「あぁ、そうだな……」
そう言えば、前回もそんな話を聞かれた事があったな。前回は、カイゼルの事を気に入っているからとだけ言った記憶があるな。まぁ、気持ちは変わってないし同じ事を告げるか。
「お前の事が気に入ってるからかな」
「え、えぇ!? そ、そんなぁ!?」
「そんなに驚く事は無いだろ」
「だ、だって、魔王様からそんな事を聞けるなんて思ってなかったので」
そうか、やっぱり前回も同じ反応してるから改めて過去に戻った気分だな。でも、これでハッキリした事がある。それは、俺様もカイゼルの事が大好きだと言う事だ。
しかし、その意味は恋人の様なロマンス的な意味では無い。ただ、娘を育てている父親の様な感情である。だからこそ、カイゼルが死んだ事で俺様は歪んでいったのではないかと自分なりに推測した。
「魔王様、もう一つ良いですか?」
「なんだ? 何でも答えてやる」
「ありがとうございます。そうですね、魔王様の出身地とか過去について聞きたいです」
「出身地と過去か……」
俺様は、カイゼルに言われてふと過去の事を思い出した。そう言えば、俺様が子供の頃は母親の二人で小さな島に暮らしていたな。そこの島は、基本的に哺乳類に該当する生物は殆ど見当たらなかった。
しかし、木の実や魚類などが盛んに獲れてたから暮らせない訳ではなかった。しかも、そこまで広く無いのでこの島自体が家みたいな感覚で過ごしていた。
「だけどよ、俺様の島に突然人間が攻め込んで来たんだ」
あの日、俺様の島に海賊団と名乗る人間達が攻め込んで来た。そして、そいつらのせいで母親は殺されてしまった。その時、俺様は自分の能力が爆発して奴らを皆殺しにした。
「あの時、俺様の力がこんなにも偉大である事を知ったから故郷である島を離れて旅する事にしたんだ」
「そうだったんですね。お母様が亡くなられた事は残念ですが、その事で魔王様と出会えた事は凄く嬉しく思います」
「そうか。そう言えば、お前は奴隷として売られる予定だったもんな」
俺様達は、悪魔族と言って奴隷に適している種族であった。何故なら、悪魔族は契約を裏切る事が無いからだ。それは、悪魔族の本能なのかもしれないが、奴隷商売の奴からすれば奴隷液を使わずに安く済むからだそうだ。
「はい。でも、盗賊団の人間達は契約に無い事を私に要求してきたので思わず……」
「これ以上言わなくて良い」
「は、はい。ありがとうございます」
俺様は、カイゼルに辛い過去を思い出させてしまった。だから、悪いと思ってこの話を切り上げる事にした。取り敢えず、俺様は精霊族や作戦についての話に切り替えてカイゼルの調子を上げる事に専念した。
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