第15話
※ ※ ※
ウィザたちはダンジョン二層、荒れ地に到着した。
そこは赤い地面が一面に広がっており、荒涼とした岩棚が立ち並ぶエリア。
喉が痒くなるような乾燥した大地を歩きつつ、一行は岩に擬態したゴーレムたちを排除して前進していった。
「ゴーレムは胸の隙間に剣を突きこむように攻撃すれば簡単に倒せるんだ。そこに核があるからね」
リーマンが自身の鳩尾を指で叩きながら言った。
「へぇ、それは知らなかった。いままでずっとごり押しだったから刃こぼれが酷くてさ。参考になるよ」
彼の解説に対して興味深そうに頷くリヨン。二人は気があうようで、一層からずっとダンジョンの攻略情報について話し合っている。
リヨンほどの剣士ならば二層の魔物など敵ではないことはわかっていた。ただ意外なことにリーマン、本名は佐藤太郎というらしいが、彼もまた低層階には何度も足を運んでいるのかいまのところリヨンに負けず劣らず活躍している。
ウィザは全く知らなかったが、琥珀によると彼も実況者らしい。しかもそれなりに人気があるそうだ。
「リーマンさんがいると頼もしいです」
「え!? あ、はは。ウィザちゃんに褒められるとなんだか照れるな……」
それに人当たりもいい。ウィザとしては成り行きで巻き込んでしまっただけだったが、もしかしたら琥珀もリヨンも彼のことを知ったうえで仲間に引き入れたのかもしれない。
そんなことを考えていると、手首に巻いた端末にメッセージが届いた。
つらつらと書かれていたのは、真人捜索任務の報告書。
「嘘……」
要約すると、特別編成チームは謎の脅威によって壊滅させられたらしい。
気が滅入るほど長ったらしいその文章は、ウィザには絶望の二文字で片づけられた。
「わたしたちならきっと大丈夫。わたしたちの目的は真人の救出だもの。別に戦う必要なんかないわ」
同じ報告を受けた琥珀に慰められるも、ウィザの暗澹とした思いは拭えない。
六層まで到達した特別編成チーム。知る人ぞ知る殺し屋からウィザのような一般人でも知っているような有名人までかき集めたまさにドリームチーム。
そんな彼らが尻尾を巻いて逃げ出すほどの脅威が六層にいる。
琥珀は脅威と戦う必要はないといったが、ウィザにはこの脅威それ自体が自分たちの目的と同一人物なのではないかという疑惑があった。
完膚なきまでに敗北したにもかかわらず死者がいないということに、ウィザは確信めいたなにかを感じ取っていた。
「琥珀さん……もし……もしもこの報告にある脅威が真人さんだったら……」
「その時は、その時よ」
琥珀は素っ気なく言ったが、彼女の声にはどこか真剣さが滲んでいた。
「心配するなウィザ。最悪のパターンなんてものはそう簡単に起こらない。多少問題があっても、大抵の場合はその後の努力でなんとかなる。お前の体重みたいにな」
「お兄ちゃん……それフォローしてるつもり?」
リヨンにボウガンを向けると、間にリーマンが割って入った。
「リヨンのいう通り、たとえ最悪でも意外となんとかなるもんだよウィザちゃん! たとえばほら、俺なんてしょっちゅう予想より酷い状況になることが多いけどこうして生きてるしさ! だからウィザちゃんも大丈夫!」
「リーマンさん……」
「リヨンとリーマンの言う通りよ。それにほら、コメントを見てみなさい」
琥珀に言われて端末を確認するウィザ。
”救出チームのことは残念だったけどウィザちゃんなら大丈夫!”
”真人が人を傷つけるはずがないよ!”
”応援してるからがんばれ! でも無理はしないで!”
そこには暖かいコメントがたくさん送られていた。
記録も兼ねて配信していたが、こんなにも大勢の人に見守られていると不安な気持ちもいくらか軽減された。
信じるしかない。自分の力と、真人の生存を。その答え合わせをするために、前に進むしかない。
ウィザはそう思って、赤い土を踏みしめた。
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