第17話 もう一度

その日は朝から忙しかった。

ようやく支度が整ったのは、城からの迎えが到着するほんの少し前だった。

蜻蛉のことを報告するだけだよね?

新しいドレスまで用意されていたので驚く。

それに、ローザはわたしの髪を結い、化粧をすると譲ってくれなかった。

王様と女王様にお会いするということは、それほどすごいことなんだ…



「ローザ様は、アデーレ女王がお呼びです。リリィ様はこちらでお待ちください。」

城に着くとすぐに、ローザは呼ばれて行ってしまい、わたしはひとり見たこともないような大きな部屋に残された。

部屋の壁には大きな絵が飾ってある。

どうやら王とその家族が描かれたもののようだ。

少し怖そうな面持ちの王様、その横に優しく微笑む女王。二人の前には幼い子供が3人。第一王子と、その弟である第二王子、そして王女。

その絵を見ていると、扉が静かに開く音がした。

「リリィ?」

アルルがあたりを伺いながら部屋に入ってきた。

「ひとり?」

「はい。」

「あなたに伝えるべきことがあったって言ったわよね?あんなことがあって、伝えるのが遅くなってしまって。」

あの日、『大切な話がある。』と言われていたことだ。

「わたしの夢に、何度も出てくる女の人がいて。見たこともない服を着ていて、顔は、なぜかぼんやりとしていてよくわからないのだけれど。何度も何度も、伝えて欲しいって。」

アルルは何の話をしたいのだろう?

「『16歳のあの日から、もう一度始めるの。あなたが今見ているものを信じて、ユーリ。』」

ユーリ…

「きっと、今伝えなければならないことだと思ったから。」


ユーリ…『悠里』は…わたしの名前だった。

わたしの目から涙がこぼれ落ちる。

お母さん…


この世界に、送り込んだのはお母さんだったの?



わたしは、高校一年のあの夏からやり直すために16歳という最強のアイテムをもらったんだ…



「あの時、助けてくれてありがとう。お礼が遅くなってしまってごめんなさい。それから…」

アルルは、まっすぐにわたしを見ると、

「お兄様を信じてあげて。」

それだけ言って部屋を出て行った。

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