第13話 とまどい
事務仕事は嫌いだ。
それでも、任務に行けば報告書を書かなければならない。
朝から城に詰めていたので、それだけで気疲れしてしまった。
こういう日は早く帰ってしまいたい。
「だから、オレ一人で行くの変じゃないっすか。だからここはみんなで。」
「わかったわかった。行ってやるよ。」
グルトと数人の騎士たちが何やら騒いでいる。
「あ!スザークさんも行きませんか?これから飲みに行こうって話なんすけど。」
「グルトが酒場にかわいい娘が入ったってうるさいからみんなで見に行こうかって。」
「オレにも声をかけろよ。そんなにかわいい娘なのか?」
ヴァイルが割って入る。
「ダメダメ。あっちから見たらヴァイルさんなんて『オジサン』ですからね。相手になんかされませんよ!」
「なんだそれ?」
「ヴァイルさんは酒さえ飲めればいいんだよ!女の子には興味ないんだから。」
「で、スザークさんも一緒に、どうっす?」
「その娘は何歳なんだ?」
「えーっと、17歳って言ってましたけど、ダメですよ!スザークさんまで興味持ったら!」
ヴァイルが確か今年30歳のはずだ。
それで17歳から見たら「おじさん」と言われるのか…
「悪い、ちょっと調子が悪いので今日はやめておく。」
「スザークさん風邪だったら、オレいい薬草持ってますよ!」
「んなわけないだろ、スザークは回復魔法の上級者だぞ。風邪なんか自分で治すに決まってるだろう。」
後ろで何か話しているようだったが無視して詰め所を後にした。
外に出ると、町は酒場を除き、ほとんどが店じまいを始めていた。
ふと見慣れない店が目に入る。どうやら新しくできた店のようだ。
わたしが見ているのに気づいて、店主が声をかけてくる。
「どうです?見ていきませんか?贈り物におすすめのものがありますよ。」
普段ならすぐに断るところだったが、店主の言葉に誘われて店に入った。
店の中にはペンダントやイヤリングといったガラス細工が所狭しとばかりに並べてある。
「こちらなんか女性に喜ばれますよ。」
店主が、ブルーやピンクなどの繊細な花模様が溶かし込まれた髪飾りを見せてくる。
髪飾りか…
金色の髪をいつも後ろにひとつで結んだリリィ…
「先日これの色違いを買われた旦那が、これをプレゼントして好きな女性の心を射止めたって喜んでわざわざお礼に来てくださったんですよ。」
先ほどのグルトの言葉が思い出される。
10以上も年の離れた自分がそのような贈り物をしたら、リリィを困らせてしまうかもしれない…
花のアレンジがかわいらしいガラスのドームを選んだ。
あの日、りんごの木からリリィが落ちてきた時、本当は魔法でそのままリリィを地面に降ろすことなど簡単なことだった。
でも、そうしなかった。
わざと離さないでいたのだ。離したくなかったんだ。
リリィは気が付いただろうか?
2階の窓からこちらを見ていたローザには気づかれてしまったようだ。
彼女は、笑っていたのだ。わたしのしたことを。
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