第12話 ガラスの花

この日のことは絶対に忘れない。


夕食の片づけを終え、部屋に戻ろうとしていたわたしにスザークが声をかけてきた。

「リリィ。」

「はい?」

また甘いものが欲しいのかな。

「今日はいい天気だったね。」

「はい。よく晴れていたので、お部屋の窓を開けてたくさん外の空気を入れることができました。」

「明日も晴れるかな。」

「晴れると嬉しいです。お洗濯ものがすぐに乾くので。」

「ああ、でも時には雨も必要かな。」

「そうですね。お花が枯れてしまいますから。」

ふいに沈黙が訪れた。

「これをリリィに、と思って。」

スザークは唐突に包みを差し出すとすぐに向きを変えて去って行ってしまったので、その背に向けてお礼を言った。

「あ、ありがとうございます。」



部屋に戻って、大切に包みを開ける。

包みの中にはガラス細工のドームが入っていた。

透き通ったガラスのドームの中には、花びらと花芯まで丁寧に作られた繊細なガラスの花がアレンジしてある。

きれい。


ずるいな。

スザークにとってはただの気まぐれでも、嬉しくて…悲しくて…やっぱり嬉しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る