第11話 甘くて苦い
「スザーク様!」
スザークが早朝のまだ薄暗い中、出かけようとしているとリリィが追いかけてくる。
「これ、お持ちになってください。」
「これは?」
「朝食をお召し上がりになっていらっしゃらないと思いまして、サンドイッチをお作りしました。こっちはキャラメルというお菓子です。甘くてちょっと苦くて、食べると元気が出ます!」
「ありがとう。」
「それから、先日はありがとうございました…助けていただいて。」
心なしかリリィの顔が赤い。
寒いからだろうか。
包みを受けとる時、リリィの手に触れた。手袋越しでもわかる冷たい手だった。
「寒いから、屋敷に早く戻りなさい。」
「はい!いってらっしゃいませ。」
スザークは馬に乗ると屋敷を後にした。
途中で後ろを振り返ると、リリィの小さな姿がまだそこにあった。
手袋をはずして受け取ればよかった…包みを見ながらスザークは後悔した。
任務を終え、帰り支度をしていると、まだ20歳にも満たない騎士のグルトが声をかけてきた。
「スザークさんから、なんか甘い匂いがします。」
「これかな?」
スザークは朝受け取った包みを見せた。
「何ですか、それ?」
「キャラメルとかいうものらしい。」
グルトが訴えるような顔で真っすぐにスザークを見てくる。
「どうぞ。」
「ありがとうございまっす。」
そう言うと早速ひとつ口に入れる。
「うっまっ!これめちゃくちゃうまいっすよ!」
「それは良かった。」
スザークもひとつつまむ。
甘さの中にほんのり苦味の効いたキャラメルの香りが口いっぱいに広がった。
「これすっごいうまいっす!」
「おーっなんか甘いにおいがする!」
「ヴァイル団長、スザークさんがめちゃくちゃ美味しいもの持ってるんっす!」
ヴァイルも期待のまなざしでスザークを見てくるので、袋を差し出す。
「どれどれ。」
ヴァイルもひとつ口に入れる。
「うまっ。」
「でしょー?」
「これ、ローザさんが作ったんじゃないよなぁ?あのかわいい娘かぁ?」
「スザークさんとこに来た娘ですよね?前にちらっとだけ見たんですけど、めっちゃかわいいですよね!名前なんて言うんですか?」
「リリィって言ったよな?」
ヴァイルがグルトにリリィの名を教えてしまったので、スザークは少しむっとした。
「今日は疲れてしまったので、わたしは先に失礼します。」
そう言って部屋を後にするスザークの後ろで、グルトの気弱な声が小さく聞こえた。
「オレ、なんかしでかしちゃいました?」
ヴァイルはただ豪快に笑っていた。
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