第10話 りんご
季節は秋になろうとしていた。
屋敷の中庭にある木に、大きなりんごがたわわに実っているのを見つけ、ローザに尋ねた。
「あのたくさんのりんご、どうするんですか?」
「あのりんごは酸っぱいのよ。だからいつもああして実がなっても、鳥たちの餌になるだけなの。」
酸っぱいりんご!
「少しいただいてもいいですか?」
「お好きなだけお取りなさい。誰も欲しがったりしませんから。」
「ありがとうございます!あのりんごで、アップルパイを作りますね。酸っぱいりんごならちょうどいいです。」
籠を持ってりんごの木のところまでやって来て気が付いた。
近くで見ると、りんごの木は思っていたより大きく、手が届くところには実がない。
うーん。
見つかったら怒られるかな?
そう思いながらも、上手い具合に節があったので、木に登って実をとることにした。
りんごが手に届くところまでどんどん登っていき、夢中になって持ってきた籠に入れる。
いっぱいになったところで降りようとして、困ってしまった。
木漏れ日の中、すぐ真下でスザークが本を読んでいるのだ。
降りるに降りれなくなってしまった…
まずい。
静かに降りれないかと、すぐ下の枝に足をかけた時だった。
籠の中のりんごがひとつ、スザークの目の前に落ちてしまった。
スザークは落ちてきたりんごを拾うと、見上げた。
木の上にいるわたしと目が合う。
驚いてバランスを崩したわたしは、こともあろうかスザークの上に落ちてしまった。
一瞬ふわりと体が浮いて、そのままスザークが抱きとめてくれたが、まるでわたしがスザークを押し倒したようにその場に倒れこんでしまう。
「リリィが降ってきた。」
「申し訳ありません!あの、お怪我はありませんか?」
「リリィは?」
「だ、大丈夫です。」
ふいにスザークが髪の毛に触れる。
ドキリとした。
「髪の毛に葉っぱが。」
「あ、ありがとうございます。」
「髪の毛、いつも結んでるよね。」
「は、はい。仕事の邪魔になるので。」
スザークがわたしの腰に回した腕を離してくれないのは…偶然だよね?
「そのりんごは酸っぱいから食べられないよ。」
スザークがいつもと変わらない口調で話し続けるので動けない。
「アップルパイを作ろうと思いまして。」
普通に会話してる状況じゃないんですけど…
「あ。」
「な、なんですか?」
心臓が早鐘のように鳴っているのを気づかれてしまったんだろうか。
「2階の窓からローザが見たこともない顔でこっちを見てる。」
やばいっ!
わたしがスザークを押し倒したって思われてる!
「本当にありがとうございました!失礼します!」
スザークの腕を振りほどき、急いでりんごの入った籠を持つとその場を走り去った。
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