第9話 リリィの仕事

いつものように仕事一通り終え、キッチンに入ろうとして中の様子に足をとめた。

少し不機嫌そうなスザークがローザと何か話をしている。

スザークがどうしてここに?

この屋敷に来てもう随分たつが、今日のようなスザークは初めて見る。

ローザも心なしか機嫌が悪そうだ。

何か失敗してしまったのだろうか。


「これは何だろうか?」

スザークがテーブルの上のクッキーを指さす。

「いい加減にしてください。大人げない。」

「大人げないのはローザだろう?」

何?

わたしはどうしたら?

中に入ることもできず、そのまま扉の前で二人の会話を立ち聞きする形になってしまった。

「ローザだけずるいぞ。」

ん?

「なぜわたしの分はない?」

「あら、それはスザーク様が甘いものをお食べにならないからじゃないですか。」

「なぜそうなる?」

「わたしが何度かお作りしたものを『いらぬ』とおっしゃったじゃないですか。」

「それは、あの小麦粉を揚げたやつに黒糖をからめたやたら甘いやつのことか?」

かりんとう?

「それともサツマイモを揚げてやたら砂糖を絡めた甘いやつのことか?」

イモケンピ?

「あれらは甘すぎた。」

これは、もめごと?

「とにかく、これはもらっていく。」

そう言って残りのクッキーをお皿ごと持ってキッチンを出て行こうとしたスザークと目が合ってしまう。

スザークは一瞬何かを言いかけたが、結局何も言わず行ってしまった。

怒ってる?

「お皿ごと持って行くなんて!」

ローザがプリプリしている。

「あのう?」

恐る恐るローザに声をかける。

「あのようなスザーク様を初めて見ました。随分怒っていらっしゃるようでしたが、わたし何か…」

「スザーク様は前からあんな感じですよ。全くいつまでたっても子供なんですから。ちょっと自分の分のお菓子がなかったからって、不機嫌になられて。」

お菓子?クッキーのこと?

「お菓子を作るのはリリィの正式な仕事になりました。これからはどんどんお作りなさい。ただし、スザーク様の分はほんのちょっとだけでいいです!」

ローザも大人げない…


ケーキ屋でのバイト経験は、役に立っている、よね?

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