第6話 ご加護
ディーダはわたしの傷を手当てすると、少し大きめのワンピースを着せてくれた。
「ごめんなさい、この間いただいた服を、こんな風にしてしまって。」
今ではもうボロ雑巾のように変わり果ててしまった服のことをディーダにあやまった。
「何を言ってるの。スザーク様をお助けするためだったんでしょう?よくがんばったわね。」
ディーダは優しかったが、わたしには、こんな風に良くしてもらえる資格なんてない…スザークを危険にさらしてしまったのだから。
どのくらい時間がたっただろうか。とてつもなく長い時間に感じた。
ふいに、外がさわがしくなる。
急いで外に出ると、ヴァイルたちがこちらに向かってくるのが見えた。
「スザーク様…」
右腕がどす黒くなっていて、もう何も持つことすらできないようだった。
「申し訳ありませんでした。わたしが、わたしのせいで…ごめんなさい…ごめんなさい…」
涙がとめどもなくあふれてくる。バカ!泣くなんてダメだ。泣いてすまされることじゃない。もっとちゃんと…
「どうして!」
スザークの怒りが目に見てとれた。あやまってすむことでもないのだ。命にかかわるようなことをしでかしてしまったのだから。
スザークは馬から降りると、わたしに言った。
「どうしてこんな無茶を…」
え…
「すまない。わたしの力が足らず、怖い思いをさせた上に、また傷だらけにさせてしまった。」
走っている途中、わたしは森の中で転んだり、木の枝が刺さったりしたせいで、あちこち傷だらけになったのだ。
「わたしの傷なんて、すぐに治ります。でも、スザーク様の腕は…」
「わたしの腕は大丈夫だから。少しばかり魔力を使いすぎてしまって、今のわたしではリリィの傷をすぐに治してあげられそうにないから、少し待っていられる?」
そう言うと、スザークはヴァイルに言った。
「アルルを呼んでもらえないだろうか?」
「アルル様がいらっしゃいました。」
屋敷のメイドがわたしとディーダのいる部屋に呼びに来た。
「リリィ、行きましょう。」
ディーダはわたしを広間に連れて行った。
長い銀髪をポニーテールにした女性がヴァイルと話をしていた。
年のころは今のわたしと同じくらいに見えるが、騎士団団長だというヴァイルより位が上のようだ。
やがて、ヴァイルがうなずき、広間を出て行くと、アルルはスザークの元へ近づいた。
「無様ね。」
アルルはスザークに言い放った。
「悪い。彼女の傷を治して欲しい。それから、これも。」
「めずらしい。わたしに頼み事なんて。」
「黙って治してよ。」
アルルがこちらに近づいて来くると、ディーダが深々とお辞儀をしたので、同じようにお辞儀をする。
「あら。」
アルルはわたしを見て少し驚いて、
「これ、もういいわよね?」
と振り向いてスザークに言った。
アルルがわたしの前に手をかざすと、ふわっと空気が舞ったような気がした。そしてその後、陽の光のような暖かさがからだを包み込んだ。
あっという間に無数の傷が癒える。
「ありがとうございます。」
「…。スザークの傷はあなたのせいではないから。スザークの未熟さがまねいたこと。彼は、この程度のことで傷など負ってはいけない立場なの。でも、そうね、それでもあなたが罪悪感のような感情を消すことができなかったら、この国のことを学びなさい。そして、このようなことが二度と起きないように知識を得なさい。ローザを頼るといいわ。」
そう言って、スザークの元にアルルは戻って行った。
「このくらい、数日もしたら自分で治せるよね?それなのに急いで治したいのは、あの娘のため?」
「うるさい。」
「あの娘への守りの魔法を解放したから、少しは魔力の戻りも早くなるはず。彼女が逃げる間かなり遠くまで、そして今もずっと、あの娘を守り続けながら、毒の進行も防いで、あいつと戦ってたのね。わたしに頭を下げるのも自分のためじゃない。その腕が治らないと、彼女が苦しむから。」
「心を読むな。いいから黙って治せ。」
「怖―い。ほんのちょっとだけ見直してあげたっていうのに、この国の誰もが敬う第一聖女に向かってその口のききよう。」
「自分で言うかよ。」
「スザーク、それでもあなたはこの程度で傷など負ってはいけないの。例え相手があの『蜻蛉』であっても。」
「わかってる。」
話しながらもアルルはスザークの毒を全て消し去っていった。
「スザーク…あなたロリコンだったのね。」
「違っ!」
「いいの、いいいのよー。人の趣味嗜好にあれこれ言う気ないから。」
アルルの笑い声が響く。
離れたところにいたので、ふたりが何を話しているのか聞き取れなかったが、仲の良い姿に少し、チクリと心が痛かった。ほんの少しだけ。
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