第38話 責野による謎の計画

<ホシ視点>


 地下三階を配信した次の日。

 昼間のリビングにて。


「で、どう思う?」

「さーねー」


 俺の質問に、アイスをペロペロとめながら答えるブルーハワイ。

 話を聞いているのやら聞いていないのやら。


「けどまー、あんたの判断は正解だったと思うわよ」

「だよね」

「うん。あんなのは地上に出せないでしょー。……ペロペロ」


 話していたのは、イナリさんを地上へ連れて行くかどうか。

 たまたまリビングにいたブルーハワイに持ち掛けてみたんだ。


「でも気を付けなさいよねー。……ペロペロ」

「何に?」

「ああいうの、エリカ姉さんが一番──」

「何か言ったかしら?」

「「……!」」


 だけどその時、ふいに後ろから聞こえてくる冷たい声。

 俺たちがゆっくりと振り返った先にいたのは……姉さん。


「エ、エリカ姉さん……聞いてたの?」


 手をぷるぷるとさせるブルーハワイ。

 残り少なかったアイスは、ぽとっと床に落ちた。


「もう一度言うわ。何か言ったかしら?」

「えと……」

「んー?」


 足を浮かせたまま、すーっとブルーハワイに笑顔で寄っていく姉さん。

 でも目は笑っていない。


「ブルーハワイちゃん?」

「~~~っ!」


 これ以上は無理そうだ。

 ブルーハワイは話していたことを赤裸々に話す。


「あのイナリって人、姉さんが好きじゃなさそうだなって……」

「イナリ? あーそれってもしかして」

「ひっ!」


 イナリさんの名前を聞いた途端、姉さんの髪がふわ~っと浮き出す。

 ブルーハワイは思わず後ろにのけぞった。


「ホシ君を惑わそうとする悪女のことかしら」

「ああ……やっぱり」


 姉さんの不気味な表情。

 ブルーハワイは納得のいった様子だった。

 姉さんが気に入っていないことに勘付いていたらしい。


「あのぎつね。私のホシ君に色目使ってくれちゃって。ねえ?」

「そ、そうだねー……」


 ブルーハワイをにらみつける姉さん。

 でも、これ以上はブルーハワイが可哀そうだ。


「姉さん、ブルーハワイをいじめてどうするんだよ」

「あら、それもそうね」

「……ほっ」


 間に入ると、なんとか引き下がってくれた。

 ブルーハワイも一安心したみたい。


「で、姉さんはどう思う?」

「反対に決まってるでしょ」

「そっかー」


 姉さんはイナリさんのことは好きじゃないみたい。

 ショッピングモールの復興の時はそんなことなかったのに。

 配信での様子を良く思わなかったのかな。


「でも、喧嘩はしないでよ」

「あらあら。そんなことするわけないじゃない」

「姉さんは分かんないよ」

「そんな~!」


 甘い声を出してるけど、怪しいなあ。


「だけど……そうね」

「姉さん?」

「何やら変な計画は進んでいるみたいだけどね」

「?」


 この時の俺は、なんのことを言っているか分からなかった。







<三人称視点>


 その頃、街のとあるカフェにて。


「なにこれ……」


 一人の少女が、スマホを見ながら首をかしげた。

 高校生唯一のSランク探索者であり、ダンジョン配信者としても活動する、ヒカリだ。


 だが、そんな彼女は不可解な表情を浮かべている。


「責野さん、おかしくなっちゃった?」


 たった今、責野より送られてきたデータに目を通したからだ。

 そのデータのタイトルは『もふもふ街計画』。


「しかも、もう一人来るって……」


 ヒカリがカフェに訪れていたのは、責野に呼ばれたから。

 その上で、この場にはもう一人呼んでいる者がいるらしい。


「誰なんだろう……あ」

「あ」


 そうして、ふと後ろを振り返った瞬間、目が合う。


 茶色のボブヘアを揺らして、可愛らしい私服を身に付けた女の子。

 ホシの幼馴染、ナナミだ。


「ヒカリちゃん?」

「もしかしてナナミちゃんも?」


 二人は、ホシの家で花火を見た時に知り合っている(元からお互いにライバル視をしていたようだが)。

 それでも今は仲良く、気兼ねなく話せるらしい。


「こんにちは、二人とも」


 そんな二人のもとに現れる責野。

 ヒカリ、ナナミ、責野、これで役者は揃ったらしい。


「では話をするわね」


 個室付きであるこのカフェ。

 扉をしっかりと閉め、周りへ音が漏れる心配はなさそうだ。


 ヒカリとナナミが席についたところで、責野が真剣な表情で話し始める。


「二人にも協力してもらいたい『もふもふ街計画』について」


 その謎の計画についてを──。

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幼馴染の配信を手伝っていたFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~どうやら今まで住んでいた自宅は、最強種たちが生息する規格外ダンジョンだったみたいです~ むらくも航 @gekiotiwking

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