俺の家にストーカーが来た!

じゅうや 

第1話


「んじゃあ、2次会行くよ〜!」


 サークルの代表が声を上げると、他のサークルメンバーはぞろぞろと次の会場へ向かっていった。


「あれ? かけるは来ねぇの?」

「いや〜飲み過ぎてちょっとキチぃわ、また今度にする」


 フラフラとする視界と頭で、どうにか出した言葉をサークル仲間に伝えて、俺は一人逆の方向へと向かった。



 自分ではそんなに量を飲んだつもりは無いが、夏休み前ということもあり、張り切って度数の高い物ばっかを飲んでしまっていた。


 「やっべぇ……結構キテるわ……」


 なんとか気を確かに持ち、電車に乗り、最寄り駅まで着いたところで、俺はダウンしてしまった。


 道端で倒れ込んでしまうとお巡りさんのお世話になりそうと危惧した俺は、さり気なく休憩してるふうに見せるため、近くのベンチに座り込んだ。


 「ふぅ……うぅ……」


 座った安心感からか、あまりの眠気に耐えられなくなった俺は、ベンチの背もたれに寄っかかり、そのまま眠りについてしまったのだ。

 意識が遠のく際、女性らしき人影が視界に入ってくるのを認知したが、他人に構ってられるほどの余裕が無く、俺は瞼をそのまま閉じてしまった。





「……ふっふ〜ん! ふっふふっふふ〜ん♪」


 

 ……鼻歌? 女性の声がする。


 なにやら美味しそうな匂いが部屋をたちこめている。換気扇の音、包丁で何かを刻む音…誰かが料理をしている。


 「ヴゥゥ……うっ……」


 徐々に意識が覚醒した俺は、情けない呻きと共に身体をゆっくりと起き上がらせた。


 そこはクーラーが良く聴いており、とても心地が良い空間だった…そう、心地が良いのも訳があった。


 「……あれ、マキニャン……ここ……俺の部屋……?」


 眼前には俺の大好きなアニメキャラのポスターが貼ってあった。間違いなく俺の部屋である。


 「っつー……頭いてぇ……」


 ベンチで座り込んだ辺りから記憶が無く、思い出そうにも二日酔いの影響か、頭痛で思考が回らない。

 すると、キッチンの方から元気な女性の声が聞こえてきた。


 「あっ!! 起きたんだね〜! くん!」

 「うん……」

 「体調どう? 頭とか痛くない?」

 「頭……痛い……」

 「おっけー! じゃあとりあえず水飲もっか!」


 彼女は水を注いだコップを、布団にいる俺のところまで持ってきてくれた。


 「ゴク……ゴク……」

 「あら〜いい飲みっぷり〜!もうちょいでご飯出来るから!待ってて!!」

 「はーい……」


 ……?



 なぜ俺の部屋に女性が?


 なぜ俺の名字?


 というかそもそも、なぜこの女性はキッチンに立ち、料理を作っているんだ?

 色々と疑問に思った俺だがすぐに結論へと辿り着いた。


 「あー…夢か…」

 「夢じゃないよ! ほらっ!!」


 バチン!


 「いってぇ!!」

 「アッハハ〜!! クリーンヒット〜!」


 唐突にほっぺをビンタされた。めちゃくちゃ痛い。おかげで夢じゃないことが分かった。あと美人にビンタされるのって結構悪くない。


 冷静になった俺は、昨日のことを思い出し、この女性が助けてくれたのだと気づいた。


 「あの……助けてくれたんですよね? わざわざ料理までありがとうございます……」

 「いえいえ〜!! あそこの居酒屋から張り込んでて良かった良かった〜!」

 「張り込んでた……?」


 なにやら彼女の口から物騒なワードが飛んできた。普段同人誌を読みまくっている俺はすぐに良くない思考に辿り着いたが、「まさか」と思いすぐにその考えはやめた……が。



 「そう!! 張り込んでた!! 何を隠そう、このワタクシ! 実はですね……」


 軽く一歩下がり、スペースを作った彼女は腰に手を当て、とびっきりの笑顔とピースでこう叫んだのだ。


 「須藤加奈子すとうかなこ24歳!! 田中くんのストーカーやってます! イェイ!」


 


 ……俺はもう一度、ベッドに横たわった。

 

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俺の家にストーカーが来た! じゅうや  @zyuya

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