切れていく、縁の可能性
「それって、昨日と言ってることが全然違うじゃないですか……!」
陽菜の言葉にめぐるが血相を変える。
これまでひじりの容態を悪化させないために、――ひじりを死なせないために行動してきた。
それを一転させ、彼女を死なせるなどと口にしてしまえば、めぐるのような反応が帰ってくるのは当然だ。
「だから言いたくなかったんだよ」
めぐるに問い詰められ、ふいと陽菜が目線を逸らす。彼女自身、めぐるの反応が返ってくるのは承知のことだった。
あくまでひじりに問われたから答えただけ。そうでなければ、陽菜はまだその可能性を口にはしなかった。
そもそも、今出てきた可能性はまだ可能性の域を出ない。また、試すにしてもあまりにも危険性が高すぎる。だからこそ、黙っていてもさしたる問題はなかった。
「とはいえ、今まで謎のまま残っていた問題は、おおかたこれで説明がつくのも事実だ」
ひじりに備わった数々の現実離れした能力に、彼女が異様なほどに特別扱いされている現状。
それがすべて彼女の見る夢だからとすれば、架空の存在が現実に現れるよりも納得はいく。
それこそ、あまりにも都合がいいといえるほどに。
そして陽菜には、この世界が夢であることを明かした理由は、ひじりに問われて観念した以外にもう一つある。
「それに、もしもこの説が当たりなら、おそらく最も穏便に問題が解決する」
「どういうことですか?」
「交通事故に遭ってから二年間意識が戻らないなんて、普通ならば体に悪い影響が出てきてもおかしくはないだろうからね」
大翔とひじりが出会った辺りでおよそ一年。それから一年間彼と行動を共にするため、合計すれば最長で二年ひじりは目を覚まさないことになる。
医療に詳しいわけではないが、それだけの時間意識不明なままであるのは確かに異常だ。
以前陽菜はナースから、異常は見つからないが、なぜか目を覚まさないと言われているのを思い出す。
「でも、その場合、問題が一つある」
人差し指を立てながら話す陽菜に、ひじりが頷きながら続く言葉を引き取った。
「この世界での出来事は、すべて私の見た夢の話だということです」
「ああ、林先輩の名残惜しかったって、そういうこと」
「そういうことって、どういうことだよ」
「ここで起こった出来事全部、ひじりさんの記憶にしか残らんってこと」
よく理解しきれなかった大翔に、涼がざっくりと説明を加えた。
これがひじりの見ている夢であるならば、他の誰も見ていないものであるならば、他の誰の記憶にも残らないのは当然だ。
現実に戻れば、このせっかくの出会いもなにもかもがなかったことになる。
陽菜が名残惜しいと言ったのもうなずける。
やり方や結果はどうあれ、陽菜がつまらないと感じていた現状をどうにか打破しようと奔走した彼女との関係を簡単に失える選択ができるほど、与えられた影響は小さくない。
そして、それは他の三人も一緒だった。
ひじりの事件をきっかけに知り合っためぐるとの繋がりは、事件そのものがなくなってしまえば当然のようになくなるだろう。
さらに、夢を見始めた時点が二〇二一年、つまり大翔が高校に入学する一年前であるのならば、大翔と涼が出会うことすら夢の中の話となる。
陽菜との出会いもどうなるのだろう。彼女が生徒会長になったのはひじりがきっかけだった。
それがなくなってしまえば、陽菜は生徒会に入っただろうか。
そして、大翔達と出会っていただろうか。
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