初めての邂逅
「それで、ここですか」
「ああ、ひじりの動きを警戒していて、まだ試してないことがあるからね」
陽菜に連れられてやってきた施設を入り口から見上げながら、大翔がぽつりと呟いた。
降りた駅からなんとなく目的地は察していたが、いざ実際に辿り着いたとなるとこの言葉が口を突いて出てきた。
大翔達がやってきたのは、街にあるとある総合病院。
ひじりが入院し、今もなお目を覚ますことなく寝かされ続けている、あの病院だ。
病院のエントランスに入り、逆巻ひじりの見舞いに来たことを伝えると、陽菜は迷いなく病院内を進んでいく。
陽菜達はまだしも、あまりにも場違いな格好をしたひじりはさすがに止められるかとも思ったが、どうやら彼女の姿は大翔達にしか見えていないらしく、止められるどころか声を掛けられることすらなくナースの横を素通りしていった。
そういえば、前回のループでひじりがフードコートに現れた時も、他の客から一切反応されていなかったなと、大翔は内心思いながら陽菜の後ろをついていく。
そのひじりの歩みが、ふと止まった。
「すみません、ちょっといいですか?」
その一声で全員の視線が彼女に集まる。目的の病室まであと数メートルというところで、ひじりは何もない空間に手を突いて言った。
「私、ここから先に行けないようです」
「どういうこと?」
「なんて言えばいいか……、私の前に見えない壁のようなものがありまして、廊下が塞がれているといった感じでしょうか」
「なるほど、ね。徹底してるな」
首をかしげるめぐるにひじりが答え、それに陽菜が納得して頷く。
「それじゃ、私はお姉ちゃんとここで待ってます。皆さんは先に行っててください」
「分かった。なんかあったらすぐ呼ぶな」
ともあれ、今のままではひじりは病室までたどり着けない。
仕方なく、先に進めないひじりの付き添いでめぐるが一緒に残ることになり、あとの三人が病室に先行することになった。
ひじりの病室は、前回のループと全く同じ状態のままだった。
ベッドの脇に置かれた棚には小型のテレビが置かれているが、使われている様子は全くない。わずかに口を開けた棚の引き出しから、中に詰め込まれた着替えやタオルがこちらに顔を覗かせていた。
窓からは白いカーテンに遮られた日の光が程よい明るさと温もりを部屋に届け、窓の脇に吊るされた三つの千羽鶴がその恩恵を一身に受けている。
変わっているところといえば、呼吸器に繋がれたひじりの顔色が、以前よりも少しだけ悪くなっているような気がしたくらいだろうか。
「それで、さっき言ってた試したいことってなんですか?」
「これまで私達は、ひじりのループをこれで対策してきただろう? 今回はその応用だ」
「ああ、ゲームで例えるなら、セーブデータの書き換え、ってやつですよね」
「そう、そして今回は、そのセーブデータそのものをバグらせる」
そう言って、陽菜はカバンからノートを取り出してページを切り取ると、ペンでさらさらと何かを書き込んだ。
大翔と涼が、彼女の両側からその内容を覗き込む。
――逆巻神社の神となった逆巻ひじりは、病室で眠る逆巻ひじりを認識できるようになる。
陽菜は慣れた手つきでそんな内容の書かれた紙で折り鶴を作り、窓辺に吊るされた千羽鶴に追加した。
病室の千羽鶴は、持ち越したい記憶を次のループへ保持する役割を持つ。
だが、それ以外の使い方は試したことがない。少なくとも、ひじりが他の使い方をしている場面を見たことはないはずだ。
「これ、本当に上手くいくんですか?」
「さあね。私にも分からないから、まずはお試しというわけさ」
首をすくめてみせる陽菜だが、どうやら効果はあったらしい。
ひじりのいる病室に、二人分の足音が近づいてくるのが分かる。きっと、病院で眠るひじりを認識できるようになったことで、廊下を阻む見えない壁が消えたのだろう。
そうして病室を覗き込んだひじりは、窓際のベッドに寝かされている女性の顔を見て、顔を青ざめさせた。
「え、これ、私、ですか……?」
信じられないといった様子で、病室で眠る自分と同じ顔をした少女を見るひじりに、陽菜が頷いて返す。
それから陽菜はひじりに対し、初めて認識した病室のひじりについて話し始めた。
学校での彼女の様子や人柄、評判。足りない部分はめぐるに補足してもらう。
そして、ひじりがこれ以上タイムリープを行ってはならない理由も、憶測を交えながら話した。
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