これからについて
「さあな。そんなの俺にも分かんねえよ」
「普通のやり方じゃあ上手くいかんやろうし、なあ?」
「でも暴走さえしていなきゃ、少なくとも失敗はしてなかったんじゃないでしょうか」
――答えを返さないばかりか、首をすくめて思い思いに話し合った。
必至な表情で訴えかける相手に掛けるようなものではない、容赦のない言葉が各々の口から飛び出してくる。
「……あの、もう少し言い方とか選べませんでしたか?」
そのあまりにもあんまりな言われように、ひじりの目尻に溜まった涙も引っ込んでしまった。
「といってもなあ。ひじりだし」
「ひじりだしってなんですか! ていうか、私がどうすればよかったか、皆さんから解決案が全く出てこないんですけれど!?」
「まあ、そらたぶん無理やろうし」
「無理って! そんな簡単に無理って!」
さきほどまで沈んだ顔をしていたひじりはどこへやら、たった二、三のやり取りだけで、彼女は顔を真っ赤にして抗議を申し立て始めた。
「ま、そういうわけだから」
「そういうわけって! そんなあっさりとそんなわけで済ませるなんて――」
「俺達は、これからのことを考えることにする」
「……これから、ですか?」
自分の言葉をそのまま返されて、大翔が頷く。
「涼が言ったように、今までのひじりがどうすればよかったかなんて俺達にも分からない。でも、今はひじりの力のことも含めて、ひじりのことを知っている奴が四人もいるんだ。だからそろそろ、やり方を変えてもいい頃合いじゃないのか?」
「確かに、お姉ちゃんは今までずっと暴走しっぱなしで、失敗続きだったかもしれないよ。でも、それも全く無意味だったわけじゃないんじゃないかな」
大翔に続き、めぐるもひじりに口を開く。
ひじりのこれまでの行動は、結果として、陽菜や大翔達と出会うきっかけになった。
何度も同じ時間を繰り返して、試行錯誤の末に、たったの四人。
彼女が望んでいたほどではない、不十分なものだったかもしれない。だが、それでも、彼女の欲していたものは、存外ずっとすぐ近くにあり続けていたのだ。
「ただし、条件が一つ」
ひじりが口を挟む前に、大翔が彼女に指を立てる。
陽菜との距離をもっと積極的に詰めに行けと提言した、いつぞやのひじりの仕草のようだなと、頭の片隅でほんの少しだけ思った。
「今後上手くいかないことがあったとしてもタイムリープはしない。それは守ってくれ」
「どうしてですか?」
「ひじりも含め俺達の頑張りを、全部なかったことにされたくない」
病室のひじりの容態をこれ以上悪くさせないため。
本来の理由を言ったところで、彼女のことを認識できないひじりには何を言っているか聞き取れないだろう。だからひじりを納得させるためには、何か違う理由が必要になってくる。
そのために口から発した別の理由は、発言した大翔が思った以上に口からするりと滑り落ちた。
きっとタイムリープのことを知ってから、心のどこかで引っかかっていたのだろう。
ずっと、己の頑張りを否定するためだけに使い続けた彼女の能力を、無意識のうちに疑問に思っていたのだろう。
「……上手くいかなかったらどうするんですか?」
「来年以降も続くだろうな」
「いつ上手くいくんですか、それ」
「さあ? そんなもん分かんねえし、そもそも上手くいく保証も最初からない」
立て続けに質問を繰り返すひじりに、大翔は首をすくめて曖昧な言葉を返すばかり。
見ようによってはあまりにも投げやりで無責任。
だが、これが大翔の精一杯だ。
決して嘘を吐かない。決して不都合なことを隠さない。
今の彼に必要なのは、丹念に組み上げた完璧な計画でも、約束された確実な未来でも、ない。
「ただ、信じてくれ」
ひじりの目をまっすぐ見つめて、ただ一言口にした。
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