どうすればよかったっていうんですか
「自分のために優しさを押し付けて、誰かと一緒にいたかったということを理解してとは言いません」
ずっと震えっぱなしな声で紡がれた、これまで頑なに打ち明けるのを拒み続けた彼女の話が一区切りついた。
一呼吸置いて、ひじりがばっと顔を上げる。
慣れない話をして目尻に溜まった涙も、乾いた喉から出てくるかすれた声も気にすることなく、彼女は口を開いた。
「――っでも! 私が皆さんの力になりたいと思ったのは、それは本当のことで――!」
「知ってる」
必死の形相で訴えかけようとした彼女を、大翔は一言で制する。
「ひじりがいつだって、心の底から誰かのためになろうとしていたことは最初から知ってる。そんなもん、お前の声色見たら一発だよ」
誰かと一緒にいたい。
誰かの力になりたい。
その両方ともが本心からの願いだったから、それを大翔も分かっていたから、最初に彼は「他に欲しいものがあるんだろ」と口にした。
大翔に、彼女のその想いを否定するつもりはない。
「ただ、ひじりはやり過ぎだ」
だが、彼女の想いを肯定するだけでもいけない。
ひじりは一度、陽菜の願いを叶えようとして失敗した。それから一年間、彼女は一度も誰かの願いを聞くことも、時間遡行もしていない。
きっとその間、ずっと彼女は考え続けていたのだ。自分のやっていたことは間違っていたのか。どうして陽菜は自分を拒絶したのか。
そして、終ぞわからずじまいのまま、今度は大翔の願いを叶えようとした。
彼女が未だに分かっていないというのならば、ちゃんと言って聞かせてやらなければならない。
「ひじりが望む完璧な状態になるまで、時間を巻き戻してでもやり直すほど、俺達は求めちゃいなかったんだよ」
きっぱりと、大翔はひじりの行いを突っぱねた。
彼のこの一言が、一体どれほどひじりの心を抉ったのだろう。
くしゃりと、彼女の表情が歪む。
「じゃあ、どうすればよかったっていうんですか!」
初めて、ひじりが声を荒げた。
「私にはこれしかないんです! 他にはなんにもないんです! そんな私が、どうすれば――」
ひじりは何かを恐れている。大翔はそんな声色を見透かした。
ひじりが何を恐れているかを、大翔はこれまでの言動からすでに見抜いていた。
「――どうすれば、誰かと一緒にいられたっていうんですか……」
ずっと寂しかったと、彼女は言った。
方法はどうあれ、彼女は誰かと一緒にいることを望んでいた。
そうして行動に移した結果、陽菜とは決別することになった。
それが心の傷となったのだろう。
ひじりは、ひとりぼっちでいることを恐れている。
ひじりは、ひとりぼっちに戻ることを恐れている。
そんな、これまでの頑張りを否定された、寂しがりやな彼女の問いに、大翔達は――
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