ひじりとめぐる
めぐるの言葉に、今度は大翔が驚かされる番だった。
「待って、ひじりって、めぐるちゃんのお姉さんだったの? ていうか、めぐるちゃんお姉さんがいたの?」
「おい、そこは知らんかったんかいな」
矢継ぎ早に問いただす大翔を、涼がツッコミを入れながら制す。
涼の声に一時止まる大翔の視線の先には、状況を上手く呑み込めずに固まっているめぐるの姿があった。
それから数秒、ややあって我に返っためぐるが、涼のツッコミと大翔の質問への返答を口にする。
「そもそも、私はお姉ちゃんのことを大翔さんに話したことはなかったはずです。それに、お姉ちゃんが大翔さんに助言だなんて、そんなことできるはずがないですし……」
「できるはずがない? その、ひじりさんって人は、今どこで何をやっとるん?」
何気なく涼の口を吐いて出た言葉に、不意にめぐるの表情が曇る。
まずいことを聴いてしまった。涼が後悔するももう遅い。
「お姉ちゃんは一年ほど前に交通事故にあって、以来ずっと目を覚ましていません。伊那姫高校に通っていたので、本当だったら今頃、大翔さん達の二つ先輩になっていたはずなのですが……」
「そ、それは……」
「……ごめんな、嫌なこと言わしてもうて」
泣き出しそうな顔をして話すめぐるに、大翔と涼は頭を下げる。
そんな二人に、めぐるは首を振って答えた。
「いえ、お二人が悪いわけではありませんし、気にしないでください。ただ、ここでお姉ちゃんの名前が出てくるのは、偶然、なんでしょうか……」
ぽつりと呟いためぐるの言葉に、誰も答える者はいない。
だが、そこにいた誰もが、ただの偶然とは思えなかった。
そこでふと、大翔が自分のスマホをポケットから取り出した。慣れた手つきでスリープを解除し、とある連絡先を入力する。
「大翔、誰に連絡するつもりや?」
「陽菜先輩。めぐるちゃん言ってたろ? 本当だったら今頃俺達の二つ先輩になってたって。それってつまり、陽菜先輩と同級生だったってことだよな?」
通話ボタンに触れそうになった親指をふと止めて、大翔が涼の顔を見る。
「たぶん、俺達は逆巻ひじりがどういう人物かを知らなくちゃいけないんだと思う。元同級生の先輩なら、めぐるちゃんとはまた違うことを知ってるかもしれないだろ」
もちろん、ダメ元だけどなと大翔は付け加え、大翔はスマホの画面に映ったボタンをタップした。彼の操作により、スマホから呼び出し音が鳴り始める。
過去これまでのループにより、大翔の中に蓄積され続けてきた経験が、ついに逆巻ひじりと林陽菜を結びつけた。
コールが二回鳴り、ぷつりと回線が繋がる音がした。
『もしもし、佐藤君かい? 急にどうしたんだい?』
いたっていつも通りの、やや間延びした陽菜の声が、スマホのスピーカーから流れてくる。
「先輩、ちょっとお話があるのですが、今お時間いいですか?」
『構わないよ』
「単刀直入に聴きます。先輩が一年の時に同級生だった、逆巻ひじりという人がどういう人だったかを教えてください」
そこまで言い切って、お互いの間に沈黙が流れる。
陽菜は何を考えて、次にどのような返答をするのだろう。
身構える三人に、陽菜が何かに納得したかのように話し始める。
『そうか、ついにそこまでたどり着いたか』
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