第八章 幾度目かのループの果てに

今日も誰かの声で目を覚ます

「――。――――」


 朝、自室のベッドで目を覚ましたばかりの大翔は、ため息とともに両手で顔を覆った。


 伊怒姫高校に入学してから早一ヶ月弱。桜こそとうに散ってしまったものの、木々の新緑を街の至る所で見かける、まだまだ春真っ盛りな季節だ。


 そんな過ごしやすい朝であるにも関わらず、起きたばかりの大翔は大量の汗をびっしょりとかいていた。


 ここ最近、変な夢をよく見る気がする。


 それがどんな内容だったかは、目を覚ました時にはいつも決まって忘れてしまっている。


 かろうじて覚えていることがあるとすれば、誰かに、何かを言われたということくらいなものだ。


 それが一体誰からで、何を言われたのかは分からない。


 だが、確かに大翔は、その誰かから何かを託された。


 ただの変な夢だと断じることができないほど、とても大切なものを託された。


 実際には夢などではなく、ひじりの力によって捻じ曲げられた前回の二〇二二年で陽菜から言われた言葉なのだが、その記憶は今回の大翔にはない。


 ありもしない記憶をいくら辿ろうとも、彼が卒業式の日の出来事を思い出すことは決してない。


 だからこそ、大翔はこの一ヶ月、決して解けない問いに頭を悩まされる羽目になっていた。


 そのせいか、ここ数日は頭痛が酷く、寝つきも悪かった。頭も体も十分に休めていない。


 そして、問題はそれだけではなかった。


 地元の神社の神様を自称する、逆巻ひじりによる恋愛指南。


 初めて起きた出来事であるはずなのに、どこかで一度経験したことがあるようなデジャヴ。


 何かがおかしい。その感覚はあるが、違和感の正体が掴めない。


 誰かにこの悩みを打ち明けようにも、一体誰にこれを話せばいいのか。


 こんな突拍子もない話に、素直に耳を傾けてくれる人物などいるとは到底思えない。


 大翔はもう一度、記憶にない陽菜の言葉を思い返そうとする。


 だが、やはり、何度試みても、大翔が彼女の言葉を思い出すことはなかった。


「誰……?」


 誰に向けるでもなく、ぽつりと一言だけ呟いて、大翔はもう一度頭を抱えた。

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