二〇二二年四月十九日(五)

 とはいえ、最も警戒すべきなのは、間違いなく彼女なのですが、ね。


 放課後、部活に向かう涼さんと分かれた大翔さんは、生徒会室の扉の前に立ち、何やら考え事をしているようでした。


「むしろ、今はそれくらいしかできないってことなのかもな……」

「なにができないんだい?」

「!!??」


 大翔さんの独り言に、後ろから彼に追いついた女子生徒が反応を返します。


 伊怒姫いなひめ高校三年生、生徒会長のはやし陽菜ひなのさん。


 大翔さんが気になっているという人で、大翔さんと彼女をくっつけることが私の今回の目的で――。


 そして、私のタイムリープに気付いているばかりか、タイムリープ前の記憶をしっかりと保持している、私を除けば唯一の人です。


 正直、どうして彼女だけが私のタイムリープに気付いているのかは分かりません。


 確かに私は去年、タイムリープを使って彼女のお願い事を叶えようとしました。しかし、お恥ずかしいことではありますが、結局お願い事を叶えられなかったばかりか、タイムリープの存在に気付かれ、その際に対策すら施されてしまっていたようなのです。


 それ以来、私も自分の在り方について等、いろいろと考えましたが……。まあ、今は関係ないので一旦脇に置いておきます。


 とにかく、彼女は私と、私の切り札であるタイムリープに唯一対抗できる人なのです。その気になれば、今回も大翔さんのお願い事を阻止することができる、天敵といってもいいくらいでしょう。


 しかし、どうしてか、彼女は私の行動に気付いていながら、私に対して積極的に妨害をしようとはしないのです。彼女の行動は特に念入りに調べているので、彼女が何も手を打っていないのは間違いありません。


 彼女にも何か思惑があるのでしょうか。はたまた彼女にも行動に制限があるのでしょうか。それは私にも分かりません。


 とはいえ、私が警戒すべき相手は、優先順位でいえば陽菜さんが一番、その次に涼さん、めぐるさんと続きますでしょうか。


 それに大翔さん自身。彼は特に私と直接接触しているわけですから、タイムリープに気付くとすれば彼が起点になることが多いでしょう。


 私も神様ではありますが、限界はあります。普段は大翔さんと陽菜さんの進展を気にしなければいけないので、基本的にはこの二人の行動を集中して見ています。ですがそれが私の限界なのでしょう。お二人以外の方、涼さんやめぐるさんの動向はあまり監視することはできていません。


 とはいえ、タイムリープを看破できる人物など、そう多くはないと思うのですが……。


「まあ、立ち話もこのくらいにしておきましょうか。いつまでも部屋の前にいても邪魔になりますし。分からないことが出てきたときは、遠慮なく頼らせてもらいますね」

「ああ、任せてくれたまえ」


 ……おや? 大翔さんが今までのループでは見られなかった行動を取りましたね。

 その結果はどうなるのでしょう。私は今までのことは分かりますが、未来のことは分かりませんからね。よく見て、しっかりと判断して、次に活かすための材料にします。


 そうして、私は今日も手にしたメモを取りながら、大翔さんの一日を見守り続けるのでした。

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