本日のリザルト
店内をくまなく歩いてみて分かったのだが、このゲーセンは別にUFOキャッチャーしかないというわけではないらしい。
UFOキャッチャーを店内の中央に集め、それ以外のゲームはフロアの壁に沿うように並べられていた。店の中央を突っ切るように進んでいた二人の目に、UFOキャッチャーばかり映し出されていたのはそれが原因らしい。
なので二人は、今度は店内を一周しながら、目についたゲームを端から順番に遊び倒し始めた。
操作方法がいまいち分からず、レバーをいじくり回しボタンを連打するだけの格闘ゲームは中々白熱した。
ダンスゲームは張り切って動き回ったせいか、冷房の効いた室内であるにも関わらず想像以上に汗をかいた。
そんな楽しい時間は飛ぶように過ぎ去り、めぼしいゲームをあらかた遊び終える頃には、いつの間にか時計の針は夕方の六時、今日の解散予定時間を指し示していた。
「いやあ、今日は楽しかったよ」
「俺もです」
陽菜は手にした袋を掲げて言った。中には半分空になった巨大なお菓子の箱が入っている。
大翔も同じく、個包装のお菓子が大量に入ったビニール袋を手にし、やや上気した顔で返答した。
ショッピングモールから出た二人は、オレンジ色に染まりつつある空を背に、最寄り駅を目指して並んで歩く。
駅に着くまでの間、二人はあれがよかった、これが楽しかったと、ゲーセンでの思い出話に花を咲かせた。ゲーセンでの話題が尽きれば、今度は学校での話に切り替わる。勉強はどうだ、生徒会の仕事はどうだと、お互い無言の時間を嫌うように、最後まで楽しい時間で埋め尽くそうとするように、彼らの他愛のない会話は止まることを知らない。
そうしている間に、二人は最寄り駅の改札前に辿り着いた。改札を抜け、分かれ道のところでどちらともなく二人は立ち止まって向かい合う。これから二人は真逆の方向に向かう電車に乗って帰路に着くため、この先お互い別々のホームに向かうことになる。
電車が来るまでの数分間すら惜しむように、陽菜は口を開く。
「……それじゃ、また九月に」
だが、何かを言おうとして躊躇って、結局出てきたのは別れの言葉だけだった。
こういう時、何を言うべきかがよく分からないほど遊び慣れていないのだろうか。
ふとそんなことを思う大翔だが、それは表に出さないように気を付けた。
「そうですね。受験勉強頑張ってください」
「任せてくれたまえよ」
そう口にして胸に手を置く陽菜はずいぶん頼もしく見えた。
どこまでいっても完璧超人な彼女だ。きっと大学受験も志望校を一発で合格してしまうのだろう。まだ出会ってから半年も経っていないが、彼女にはそんな確信にも似た信頼を寄せられる。
信じられる。きっと大丈夫。
それじゃあと手を振ってホームに向かう陽菜を、手を振り返しながら見送る。彼女の姿が曲がり角の向こうに消えたところで、大翔の右手がゆっくりと降りていく。
「大丈夫、なんだけどな……」
ずっと引っかかっていた、UFOキャッチャーでの陽菜の一言が大翔の頭をよぎる。
「普段はあんまり食べないんだけれど、勉強中の糖分補給によさそうだと思ってね」
彼女の言葉は信じられる。きっと嘘は吐いていない。
だが、それだけが理由ではない。
お菓子以外の景品、ぬいぐるみやフィギュアを選ばなかったのだって、部屋に飾るようなものを嫌っているわけでないのは明らかだった。
だが、間違いなく避けてはいた。
ゲーセンで遊んでいる間、彼女はずっと楽しそうだった。きっと、心から今日一日を楽しんでいたのだろう。
だったらどうして、あの時の彼女の声色には、ほんの少しの申し訳なさが含まれていたのだろうか。
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