第二章 二〇二二年四月十九日(二)
ホームルーム(前編)
「疲れた……」
逆巻ひじりという自称神様と出会ってから、早十日ほど。
大翔は入学したばかりの伊怒姫高校に登校し、自分のクラスに入るや否や、着席とほぼ同時に自分の机に突っ伏し、そのまま深くため息を吐いた。
あれから何度かひじりからの接触があった。その大部分が、大翔と林陽菜との距離を縮めるためのアドバイスで、意外にも本当に大翔のためになるようなものばかりだった。
だからこそ、得体の知れない相手からの、本当にためになる助言に困惑しつつも、大翔はそのアドバイスをできる限り実行に移していた。
その結果、あまりに目まぐるしく変化していく環境にかなり気疲れてしまい、登校早々机に突っ伏すはめになっていたのだが。
「なんや? 朝っぱらから元気ないなあ」
「ああ、涼か。おはよう」
そんな大翔に、高校からの友人である
親の仕事の都合で、この春関西から引っ越してきたという彼は、この辺りでは珍しく関西弁で話す。
テニス部の朝練直後だからだろうか、短い髪の毛先が汗で額に張り付いている。
「おはようさん。そんで、大翔はなんでそんな朝から疲れとるんや?」
「いや、実はな……」
口にしかけて、大翔はふと考える。
先日、神社の境内で出会ったばかりの神様を名乗る女の子に、恋路を応援するというストーカー行為を宣言されましたと言って、果たして彼は信用してくれるのだろうか。
百歩、いや千歩譲って信用してくれたとしよう。今度は涼から、ストーカーの宣言通りに貰ったアドバイスを、素直に聴き入れている大翔はどうなんだとツッコミを入れられかねない。
正直、それは自分でもどうかしていると思ってはいる。だが、入学したての高校一年生と生徒会長という、ほとんど接点のない状態をどうにかするためには、彼女のアドバイスは実際ためにはなるのだ。
「……変な女の子に絡まれた。というか、現在進行形で絡まれてる」
「なんやそら」
結局、大翔はやや言葉を濁しながら、涼に今の状況を完結に説明した。
そんな彼の言葉に、涼は怪訝な顔で言葉を返す。
そりゃあ、そういう反応にもなるよなと思いつつ、大翔はふと話題を変えた。
「そういえばさ、涼は、俺が今気になってる人がいるとかって分かる?」
「ほんまにどないしたん? そんなん分かるわけ――」
ため息交じりに言いかけて、涼はふと言葉を区切った。
目を細め、口元に手を当てふと考え込む。
ああ、やっちまったなと、大翔は思った。
まだ入学したばかりで、そこまで長い付き合いでなかったとしても分かるくらい、涼の勘はかなり鋭い。彼が何かに気付き、ふと考え込む仕草をしたが最後、その後には必ず的を射た発言が飛び出してくる。
「生徒会長さんがどないかしたん?」
「……やっぱお前に聞くんじゃなかったよ」
今の言葉だけで特定してきた涼に、大翔はため息で返した。おおよその目星はつけられるかもとは思ったが、まさか個人まで特定されるとは思ってもみなかった。
対する涼といえば、大翔の言葉を聴いてけらけらと笑っている。
「いやー、今のはお前が分かりやす過ぎるんが悪いわ。それで、確か林陽菜さんやっけ? あの人がなんかあったん?」
「いや、林先輩とはなんにもないんだけれど……。ていうか涼、俺ってそんなに分かりやすいか?」
「別に? 普通にしとったらたぶんバレへんやろ。ただ、気になってる人がいますーって自分から言うてもうたら、分かるやつは分かると思う」
「マジで……?」
「マジやで」
大翔の言葉に頷くと、涼は大翔の席の前の席に座り、先ほどの推理のいきさつを説明し始める。
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