第3話・・・ギャル_再会_蠢く「敵」・・・

 1人に女子が2人の男子に言い寄られている。歩いている女子の進行を邪魔するようにして絡んでいる状況だ。

 女子ははっきり言って見た目ギャルだが、こういうことに対しては本当に興味ないらしい。男どもと目を合わせようとしない。

 湊は瞬時に思考した。

(この先の展開は読めるぞ。今からあのナンパ男2人を勇士が格好よく成敗して、あの子も勇志のハーレムの1人になるに違いない!)

 実のところ、勇士が正義の塊だという明確な出来事があったわけではないが、直感的にそう思った。

 ギャル女子が迷惑がっているのは明白だ。だが性格自体は強気な方らしく、恐れといった感情は見受けられない。

 周囲の生徒も心配そうな視線を向けるだけでそのまま通り過ぎている。

 そんな中、勇士は視線を鋭くして3人の元へ歩き出した。湊は唇の端を綻ばせ、勇士の背中について行った。

 周囲の何人かの生徒が思わず足を止めたりゆるめたりして、成り行きを見守らんとしている。

(………ん? よく見たらあの子…)


「おい、やめろよ。その子迷惑してるだろ」

「ああ? なんだこいつ」

 そして対峙した。

 誰もがイケメンと認める勇士を前にナンパ男は怯んだ様子を見せない。よほど自分の容姿に自信があるのか、ただのバカか…。

「ああ、こいつあれじゃん。四月朔日わたぬきのお嬢様とか他にも美少女囲ってるって噂のイケメンだ」

 勇士が心外とばかりにビクッと身体を震わせる。

「あれか。早速自分の部屋に女連れ込んでるっていう……なんだ、俺らと大して変わらないじゃん」

「君たちと一緒にしないでくれる? それよりも…」

「なになに? お前もこの子狙ってるの?」

「なるほどー。そうならそうと言ってくれればいいのに!」

「ちが、そういうわけじゃ…」

 勇士の話を聞かないナンパ男達。周囲の生徒の不快感も募る。

(こんなのでも合格できたってことは才能があるんだろうなぁ)

 などと湊が呑気に考えた、


 その時、


「あれ? 湊っ!」


 ギャル女子が明るい声を上げた。 

 湊より一回りほど長い亜麻色の髪をツーサイドアップにして両耳にはピアス。制服もしゃれた感じに着崩したギャル系女子。顔は文句無しに可愛く、身長は湊と同じくらいで、白い肌や中学生ながらに発育した肢体は男子の目を引きつけそうだ。

 そんな美少女ギャルが、髪を靡かせながら片手を振って、湊の元へ小走りで駆け寄る。

 湊は何気ない仕草で片手を上げる。

「よう、愛衣あい。久しぶり」

 勇士、ナンパ男、周囲の生徒が予想外の展開に目を点にする。

 それをよそに、2人は会話を続けた。

「湊も無事受かったんだっ。イエーイ!」

「イエーイ」

 そう言ってクスリと笑い、ギャル女子と軽くハイタッチをする湊。

「ねえねえ! お互い受かったんだしID交換しよっ」

「はいはい。そういえばそんな約束してたな」

「湊ってば、交換しといてどっちか受からなかったら気まずいとか言って、交換してくれなかったんだもん。少し寂しかったんだよ?」

「ちゃんと先のことは考えるべきだぞ。その場のテンションで流されるのはよろしくない」

「あんなに私の胸ガン見しといてよく言うよねー」

「してないし! そっちが俺の目線の先に胸を持って来てからかったんだろうがッ」

「えー、そうだったっけー」

 わざとらしく、楽しそうに目線を逸らすギャル。

 それから快活に肩を上げて微笑み掛けた。

「まっ、こうして同じ学園に通うことになったんだし、仲良くしよっ」

「はいはい」

 湊も愉快気に微笑み返した。


 と、完全に2人の世界に入ってしまい、固まってしまったその他大勢。

 2人の会話が一段落付いたところで、やっと勇士が言葉を掛けた。

「あの……2人って知り合いだったの…?」

 湊は「うん」と頷き、

「入学試験の時に席隣同士になってね」

「すっかり意気投合しちゃったんだぁ!」

 そう言いながら湊の腕に自分の腕を絡み付けるギャル女子。

「初めまして。速水はやみ愛衣あいって言います。よろしくっ」

「ああ、俺は紅井あかい勇士。こちらこそよろしく」

 そうこうしている内にナンパ男達は完全に気分が削がれたようで、どこかへ行ってしまった。

 周囲の生徒も予想外の展開に驚き、そのことについてヒソヒソと話題にしながらその場を去る。

 湊は腕時計を見やり、半眼になる。

「やべ、そろそろ時間だ」

「教科書販売? 私も行くとこだったんだ。一緒に行こっ」



 ■ ■ ■



「ふーん、そんなことがあったんだ」

 湊と勇士が住む305号室に戻り、つい先ほどの出来事を話すと、琉花るかが頬杖をつきながら呟く。そして視線を一点に移した。

「風宮さんに四月朔日さん、初めまして。速水愛衣って言いまぁす。よろしくねっ」

「ええ、よろしく」

「よろしくお願いします」

「ねえねえ、2人のこと名前で呼んでもいい? 私も名前呼びでいいから」

「…別にいいけど…ぐいぐい来るわね」

「ふふ、私も構いませんよ。えっと…愛衣さん」

「うん、琉花、紫音」

 晴れやかな笑顔の愛衣を薄目で見ながら、琉花は思った。

(見た目は私の苦手なタイプだけど…別に軽い女ってわけじゃないのよね。…この手の女って大体勇士にぐいぐい迫るから初め見た時は少し嫌だったけど……)

 そこで、こちらを向いた愛衣と目が合う琉花。

 愛衣は小悪魔的な笑みを浮かべ、

「そんなに睨まなくても、紅井くんには手は出さないって」

 琉花の顔が赤くなる。

(やっぱりちょっと苦手だわ!)


 一通りの挨拶が済み、自然と5人で課題を行う構図が出来上がっていた。

 小さなテーブルでは狭いということになり、途中で琉花が自分の部屋から新しいミニテーブルを持ってきた。

 部屋に備え付けの2つの机に移ろうかとも考えたが、教え合いたいとのことなのでこうなった。

 勇士、紫音、琉花と、湊、愛衣で二手に分かれ、現在に至る。ちなみに勇士はもう課題を終わらせてるらしい。今は予習してるとか。イケメンで既にフォーサー教育を受けて勉強もできる。湊が半眼で「こいつに弱点はないのか」という呟きを聞いてその場の全員が噴き出していた。



 ■ ■ ■



 その日はあっとう間に過ぎ、女性群はそれぞれの家に帰宅。

 湊と勇士は風呂を済ませ、消灯時間にベッドに入って雑談しながら就寝した。勇士が前から二段ベッドの下を使っていたらしく、湊は上のベッドで寝ることとなった。

 …だが、長い髪をおろした湊は、目を閉じながら寝ずに考え事をしていた。

(……紅井勇士、風宮琉花、四月朔日紫音。……なーんかどいつもこいつも裏を感じるんだよなぁ。勇士、自分で自分のこと大したことないって言ってたけど、歩き方、手仕草、歩行時の胴体バランス、視線の動かし方…、一年や二年修行した奴の動作じゃなかった。しかも、そこいらの剣士レベルじゃない。B級レベルは絶対ある。上手く隠してるけど俺にはばればれだったな)

 スペック高過ぎだろ、と湊はニヤリと笑う。

(…幼馴染の風宮琉花が普通とは考えにくいしね。…四月朔日紫音、スカーレットからある程度の企業に入れるレベルの成績を保持しろとは言われてるけど『御十家』のコネクションまではいらないんだよなぁ)

 チェリーはひけらかせと言っていたが、それは人一倍良い成績を取って有名校に進学して一流企業に就職しろという意味だ。

 イケメンの仲間になって共に数多の敵に立ち向かえ、などという意味じゃない。

(……それに、愛衣も怪しいんだよな)

 朗らかで少し大人びた魅力を持つギャル系女子、この学園で一番仲の良い女友達のことを思い浮かべる。

(初めて会った入試の時。ほとんどの生徒が名門獅童学園に合格できるか不安な状況下で愛衣だけは余裕が見えた。まあ、それは愛衣の元々の性格が故かもしれないがな。……でも、エナジー量は勇士に負けないレベルはある。エナジー測定の実技試験の時、たまたま一緒のグループになった愛衣からほんの一瞬だが感じ取ったあのエナジー量、濃度は普通じゃない。ついでに言えば勇士の動作から本来の実力を見抜いているようにも見えたし、わたぬきさんを見た時の反応が『俺』と少し似ていたしね)

 湊は欠伸をして脳をほぐした。

(でもまあ、悪い奴って気はしないんだけどね)

 あの笑顔が嘘だとは思えない、などと綺麗事を言うつもりはない。

 愛衣の行動は所々理屈が通らない。

 イケメンで強者の勇士や同じ女子の四月朔日紫音よりも湊との仲を深めてる点がそれに当てはまる。

(まあ、まだ一日目だから何とも言えないけどね)

 湊はそれ以上のことは考えず、今日はゆっくり寝ることにした。


 ■ ■ ■



「獅童学園? ああ、もうそんな時期か。名門と言え今の段階じゃ雑魚の集まりだろ?」

 顔の輪郭が角ばった厳つい男がガハハと笑う。


「で、その獅童学園がどうかしたの?」

 フードを深く被った男が手の甲でコマをくるくる廻しながら怠そうに聞く。


「依頼だ。ぶっ潰して欲しいらしい」

 顔の右半分に奇形の刺青を彫ったリーダー格の男がそう告げる。


「それはまた面白い依頼ね。確か四月朔日わたぬき家のお嬢様いるのよね~」

 セミロングの髪をポニーテールにした女が片手でナイフを弄びながら歪んだ微笑みを浮かべる。


「…ふっ、くだらない。雑魚処理をわざわざ俺達にやれ、と?」

 両目に細長い布をハチマキのようにして目隠しした盲目の男が薄ら笑いを浮かべながら尋ねる。


「そう言うな。俺も最初は受けるつもりは無かったが報酬が過去最大級なんだぜ? …他の「とこ」もこの仕事欲しがってたところを俺達が独占できたんだ。文句は言うな。……それとリルー、なんか勘違いしてるみたいだが目的は四月朔日のお嬢様じゃねえ。生徒全員だ」


「ええ? でも今の段階じゃ全然生徒いなくない?」


「だから策を今説明する。…全員、ちゃんと自分達の部下に後で説明しろよ?」


 まだ2月中旬。

 黒い黒い『敵』が、獅童学園に狙いを定めていた。

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