第13話 赤いアイツがリベンジしにきた話
「アリスが負けたっ!?」
「にぅ!そうなんだよ!しかもめっちゃくちゃにボコボコにされちゃって王立施術院に運ばれちゃった!」
「マジか…………」
二回戦を辛くも勝ち抜いた俺は控室で体力を回復させていた。
少しズルではあるが、ルクスを鞘に納めて身に付けていると、聖剣の機能で肉体の魔力を操作できる。
魔法を使うことはできないが、魔力を肉体で循環させることで、傷の治りと体力の回復がだいぶ早くなるのだ。
そんな時にユウがボロ布で顔を隠しながら控室に飛び込み状況を教えてくれた。
「確かにアリスより強い選手がいることは想定してたし、負けることもあるとは思っていた……けど」
「ボッコボコだったにゃ。指一本触れられなかったよ」
それだ。ブランクありとは言え金プレート持ちの
そんなことができる人がいるとしたら虹等級の最上位、かなり有名な人物に絞られるはず。
「とくめーきぼー選手なんだって。顔も誰も知らないってみんなビックリしてたよ」
「俺と同じ伏兵枠かあ…………かなり不味いなあ」
世の中には未知の強豪はいるものだ。
俺のようにわけがわからない理由を背負ってる人もいるかもしれない。
それは仕方ない。問題は負けてしまえばスラムの教会は閉鎖だ。
アリスやユウに受けた恩義を考えれば負けるわけにはいかない。
「まあ、やるだけやってみるか………その前にまず準決勝を勝ち抜かないと」
アリスが敗れたのは、俺の準決勝の前に行われた準決勝第一試合。
これから俺が挑むのは準決勝第二試合。ここを勝ち上がらなければアリスを倒した相手と戦うことはないのだ。
「まずは目の前の試合から集中…………」
「大変です!ロイス選手はいらっしゃいますか!」
大慌てで控室に駆け込んできたのは係員の男性だ。
俺の試合まではまだ時間はあるはずだが何を慌てているのか。
「あ、はい。どうしましたか?」
「それが大変なんですよ!準決勝で貴方と戦うはずだったフェード選手が負傷棄権になってしまいました!」
「え…………ええええええええええええええっ!?」
俺が準決勝で戦うはずだった選手……フェード・アウト選手は実力的には、それこそアリスに匹敵する実力者だ。
現役の冒険者でもあり、まだ若いにも関わらずたった数か月で銅から鉄、そして銀等級まで駆けのぼった天才と名高い
既に金等級への昇級も時間の問題であり、俺が現れるまでは次の虹等級昇格者は彼だろうと言われたほどの実力を持っている。
まさか天才武闘家フェード・アウト選手が棄権するほどの負傷をするなんて何があったのだろうか……
「と、ともかく!次は決勝戦となりますので、そのつもりでお願いします。時間も前倒しになりすので」
「わかりました………」
まさか準決勝をとばして決勝戦になるとは……
俺としては天才武闘家との準決勝をパスできるのはありがたい
既に初見殺しを切ってしまっている俺には残された手段は多くはないのだから。
「にぃ………お兄さん、だいじょうぶ?」
「まあ………あと一回勝てばいいんだ。やってみるさ」
「にぅ…………♥」
ユウの頭を撫でつつ、さてどうしたものかと考える。
こうは言ってもアリスを圧倒的な実力で下した強さは想像の外にある。
それこそルクスの力を借りないと勝てないのではないだろうか?
(一応切り札は用意してあるけど、ここまでの相手と当たることは想定してないんだよなあ…………)
さて、どうなることか。こればかりはやってみるしかないのである。
***
「皆様おまたせしました!アクシデントにより準決勝第二試合は中止となったことは残念ですが……決勝戦はそれを補って余りある名勝負になることが期待できるでしょう!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」
「ここまで幾多の強豪を下してここまで両選手!熱いバトルを見せてくれること間違いなし!それでは選手入場!!!」
「まずは冒険者ギルドの超新星!冒険者の街イニテウムからやってきた虹プレートのスーパールーキー!
「うほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」
観客のボルテージが上がり入場口で俺の元にも歓声が衝撃となって伝わってくる。
さすがは王都最大の武闘大会だ。負けられない理由を差し引いても緊張するものだ。
肩書もなんかだ凄い盛られてるような気がする。スーパールーキーは言い過ぎでは?
覚悟を決めて一歩を踏み出し、コロシアムの武闘場へと踏み込む。
歓声という衝撃はさらに強くなり、ビリビリと俺の体を突き抜けていく。
「それではもう一人の入場者!匿名希望、本名不明!わかっているのは圧倒的な実力と美貌のみ!数々の実力者を圧倒・瞬殺したその本気は未だ不明!それでは入場してくd……」
ドォオオオオオオオオオオオオンッ!!!
実況のアナウンスの途中で、歓声すらかき消すほどの爆音、そして衝撃が地面を揺らす。
比喩や体感ではない、本当に地面を揺らした。
同時に砂煙が観客や俺たちの視界を隠す。
だが、それすら次の瞬間に強風が吹き荒れ砂煙を吹き飛ばした。
「……………ふん、ようやく前座は終わりか。まったく退屈であったことよ」
砂煙が吹き飛び、人々の視界に映ったもの、それはポッカリと巨大なクレーターの空いた武闘場の地面。
そしてその中央に立つ、赤毛のポニーテールに真っ赤な瞳、赤いドレスの女性。
「待ちわびたぞ人間。やっとお前と戦える」
まさかとは思うが、状況を考えれば疑いようもない。
さっきの衝撃は、どこからか飛んできた彼女の着地によって発生した衝撃。
その威力で地面に巨大なクレーター空くほどの。
「……………冗談だろ?」
「冗談なものか。貴様と戦うためにわざわざ、このような恰好で貴様らのルールに従ったのだ」
「…………???」
何を言ってるのかはわからないが、どうやら彼女は俺と戦うのが目的のようだ。
こんな凄まじく強い美人など俺は知らない。
人違いではないだろうかと思うが、彼女の敵意は確実に俺を赤い瞳で射抜いている。
「一応人違いじゃないかと聞いては見るけど、仮にそうでも聞いてくれる気はなさそうだ……」
「分かっているようであるな。ならば良い。問答は試合が終わってから考えるとしようか」
どの道、俺も戦って勝たなければいけない。
まさか、こんな非常識な相手と戦うことになるとは思わなかったが。
「ふふん……審判よ、試合開始の合図をせよッ!!!」
「しっ! 試合開始ィイイイイイイイイイッ!!!」
ドゥンッ!
いつの間にか赤い女に気おされた実況は裏返る声で試合開始を宣言する。
どれだけ非常識な状況でも仕事をするのはとても立派だ。
その合図と同時に、彼女が爆音と共に消えた。
「…………!? あっぶっ……!?」
俺には直感系の《スキル》は無い。 なくても人には第六感というものがある。
身の危険を感じた人は、その危険の大きさと、自分の感覚に鋭さによって危険を察知する。
俺の感覚など、さほど優れたものではない。視力やら反射神経やらの肉体的な素養であればともかく第六感の類は積み重ねた経験がものを言う。
つまるところ、さほど大したことない俺の感覚でも「これはヤバい」と理解できるほどの殺気が放たれれば、嫌でもわかる。
「あっぶね……し、死ぬかと思った……!?」
視界から赤い女が消えた瞬間、放たれた殺意から逃げるように、体を転がせてその場から逃げる。
次の瞬間には、俺がいた位地には背後から放たれた相手の抜き手が空を刺していた。
「その位地、心臓を貫く気だったかな……!?」
「何を馬鹿な、心臓を握りつぶす気だったに決まっておろう?」
いかん、ガチで殺す気だ。
しかも困ったことに、彼女は確実に今の俺よりステータスが高いことが今のわずかな動きで判明してしまう。
俺の前から消えたのは特殊な歩法や技術じゃない。
純粋に俺より速く動いただけだ。
(冗談だろ、冗談であってくれ…………こんなチートな相手に命を狙われる覚えはないぞ……!?)
これほどの身の危険を感じたのは《スキル》に目覚めてからは初めてのことだ。
上位種のゴブリンが群れで現れた時ですらここまでではなかった。
確かに今の俺は《スキル》封印状態だが、もし万全でも絶対に勝てると断言できないのではないだろうか?
「あのさ……勘違いじゃないとしら、どこで会ったんだ?俺は君を知らないんだが?」
「むぅ…………つれないことを言うではないか」
殺気が薄れる。
あるいは怒り狂う可能性も考えていたが、意外にも出てきた反応は拍子抜けするような態度。
本当に俺が覚えていないことを彼女は残念がっている。
「だが良い、許す。余は寛大だ。塵芥であるなら消し飛ばすところだが貴様にであるなら余に名乗らせる無礼を許す」
…………余?
この一人称、聞き覚えがある。
なんならこの尊大な口調にもだ。ルクスも似たような口調だが雰囲気がかなり違う。
だが、俺はこの口調、一人称、なんならあの真っ赤な色まで知っている。
いや、だがいくらなんでもそれはないだろう?
だって俺の知るアイツは………
「余はレド・ノビリス・アレス・レギナ――――赤き真竜レドの姫であるぞ!」
そうだ、アイツは真竜。俺が《スキル》に目覚めた時に戦ったドラゴンだ。
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