第27話 「「早くち〇こ見せろ」」

 総当たり戦が終わった後、俺は体育館器具室にいた。一応窓が開いているが、熱が籠り初夏だというのに真夏のような暑さだった。

「で、なんでしょうか?用事って」

「いいよ、敬語なしで、私たち同じ一年だし」

「そうそう、楽にして、ははっ」

 見るからに双子。そして、先日冬彦、琉亞と一緒に行ったカラオケ見かけた。江梨姉妹。江梨姉妹のことも、もう少し先で出会うはずだと思ったが、既に何度も“現代”とは違う行動をとっているせいで、先が読めないでいた。

「さっき、すごかったよ~。あんなに打てるってなに、中学でもやってたの?」

「うんちょっと、あいつよりは下手だけどね。さっきはたまたま接戦だったけど、いつもならあいつが大差つけて勝っているよ」

「へー、でも、気になるな~」

「なにが?」

 誰もいない器具室で、双子は分かれて俺を中心にゆっくり回る。片方が右にいれば、もう片方は左にいる。距離も数十センチ先とかなり近く、あまり耐性のない俺はドキドキしてしまっていた。

そもそも女子、それも双子に呼び出されるという体験をしたことがなかった。神前との会話だけではこのようなシチュエーションには対応できない。

「なに?ってなにだよ」「そう、なに」

「へ?」

「ほら、出して」「出して」

「だからなにって・・・」

「「早くち〇こ見せろ」」

 脳が処理を拒絶した。意味がわからなかった。否。わかりたくなかった。これが人生で初めて受けた拒絶したくなるセクハラだった。

「だって、カラオケの時」「私たち満、席で」「入れ、なくて」「変態、じゃなかった、大変だったんだから」

 目頭を押さえ目を閉じる。これは多分何かの夢だ。そう思う。そうに違いないと。シグマとの打ち合いで疲弊しただけなんだと。

「ほら、脱いで。変態」「脱げ、変態」「脱がすぞ、変態」「脱がされたいの?変態」

 双子は俺の短パンに手を掛けた。とっさに短パンを持ち上げるも、二人の力には負けるようで、徐々に下がっていく。

「ちょっと、本当に、やめ、やめて」

「早くしろ」「早く」「出せ」「出せ」

「なんでさっきから成人指定のASMRみたいに耳元で話すのやめて、ほんとやめて」

 短パンが下がり、もう少しでパンツが見えてしまいそうだ。

「ほんとにやばい、パンツ、パンツ見えるから」

「そこで何をしている」

「やば」「生徒会長様じゃん」

 助けに来たのは意外にも、ここ数日探していた神前だった。

「少し様子を見に来たらこれか、今年の一年は随分大物だな」

「だって、この人が」「ち〇こ見て欲しいって」

「いや、言ってない、言ってないから⁉」

 神前が近くと、双子が離れ、そのまま器具室を出て行ってしまった。残された俺は、短パンを戻し、きつく締めた。

「あの・・・」

「君はああいうのが、好みなのか?」

「違う!さっき、呼び出されて、いきなり見せろって言われて。無理やり短パン脱がされそうになっただけだ。神前、これは誤解だ、信じてくれ」

 神前はジト目をした。

・・・

その目が可愛くて俺の“息子”が反応してしまった。可能な限り急いで局部を両手で隠し神前に背を向けた。

「あ、か、かか、神前ちょっと、向こう向いてて」

「どうしたの?あの双子が言っていたことが事実だったり?」

「違う、今ちょっと、神前に反応して・・・あ」

 完全に墓穴を掘った。もうどうにでもなれ。

「あーえっと、その、近づいてくるだけでなく、その、ジト目が可愛くて、興奮してしまいました!すみません!」

 神前の方を向きなおし、あえて前かがみではなく、手を横にした起立の体勢になり、現状を見てもらった。問題の“息子”を見た、神前は一瞬にして顔が真っ赤に染まった。ティッシュを燃やした時のように、一瞬に。言うなれば“ちんちん”に。※名古屋弁で激熱

「なな、なんてものを見せるんだ⁉このケダモノ!」

「いやだって」

「だってもない!」

 目がグルグルしてそうな、神前に思いっきり頬を叩かれた。

「いってぇぇ!」

「あ、その、すまない。取り乱した」

「い、いえ、こちらこそすみませんでした」

“息子”は痛みに気を取られたおかげか徐々に小さくなっていった。好意を寄せている女性と体育館器具室に二人っきりという、ソリッドブック的な展開はこうして幕を閉じた。


 部活中だが、生徒会長の仕事で聞きたいことがあるという名目で顧問に許可を取り、生徒会室に来ていた。神前は本当に聞きたいことがあるみたいだったが、こっちも聞きたいことのついでにお礼をしたかった。

「さっきは、そのありがとうございます。おかげで停学にならなくて済みました」

「まったく、前の生徒会のこともあるんだから気を付けてくれよ」

「はい・・・ところで、なにかあったのか?」

「ああ、それが私の仕事がなくなってしまったんだ」

「え?」

 聞けば、この前ケンカしたパーカーの書記、沙月というらしいが、仕事を奪い神前の仕事がないだとか。十中八区善意であることは、第三者視点からすれば明白なのだが、当の神前は前回のこともあり嫌がらせなのではないかと思っており、不安になって相談してきたということだ。

善意であることを伝え拗れない様にするためにも、直接、沙月から聞ければいいのだが。沙月が神前に代わって動いていることもあり、中々捕まらないのだった。

生徒会室に入ることすらできない状態らしい。

「いや、多分善意だと。神前が前回生徒会室から逃げた後に白状してましたから」

「でも・・・私は生徒会のみんなを」

「そもそも仕事を自分からやりたがるなんて、神前じゃないと」

「なんかその言い方だと、まるで私が異常者みたいに聞こえるんだけど?」

「・・・夜が苦手なのに遅くまで仕事をする理由がみんなのためって、言っている人間は異常では?普通、夜が苦手なら早々に帰りますよ」

「うぐ・・・なら私は何をすればいいんだ」

「マグロかよ!仕事してないと落ち着かないワーカーホリックにでも陥ったのか⁉」

「次々ツッコミが飛んでくるな・・・そんなに私は変だろうか」

神前は下を向き、もじもじと両手を胸の前で適当に動かしていた。それを見てこみかみを人差し指で上下にさすり、照れくさそうに笑った。

「神前は変と言えば、変だけど、俺は良い長所だと思う」

「そうか、ならいいか」

そう言ってこちらを向いて笑う神前は、嬉しそうだった。今の神前は乙女だ。恋愛に疎い自分でもわかるぐらい、神前は好意を寄せているのだと理解した。

「ところで、妹さんは元気かな」

「妹?」

「この前なんだか、妹を大事そうに話していたじゃないか。R&Mで」

「ああ、純玲のことか。大丈夫ですよ。そこまで気にしなくていいんで」

「そう?ま、まあいいか」

 不思議そうな顔をする神前を置いて、本題に入った。

「で、神前俺から少し提案をしたいんだけどいいかな?」

「提案?生徒会のことか?」

「違う、神前の本当のお父さんのこと」

「お、お父さん・・・もしかして、誰かわかったの?」

「はい、今市議会議員選挙に出ている陣彰人さん。きっかけはテレビで陣さんが娘とのエピソード話していたこと。そのエピソードが」

「まさか星を見たあの⁉」

 神前は目を見開き驚く、まさかそんなところからと。

「そうです。似たようなエピソードを持っている人ならばいくらでもいたけど、陣さんはその星のエピソードの前に気になることを言ってましたよ。娘が誘拐されたって」

「⁉」

 神前は一気に青ざめた。この世のものではないものを見た時のように、もしくは隠し事がバレそうになった子供のようにも見えた。

 ここまでの反応を予想していなかったので、話そうか一瞬迷う。それでも、神前ならば大丈夫だろうと、謎の信頼を勝手に寄せてしまった。

「それで、陣さんが確実に本人だと思えるように深堀したら、十三年前のネット記事を見つけて確信が持てたんだ。陣 彰人さんが神前のお父さんだ。それでシグマと一緒に色々話し合ったりもして。神前はおそらく同情して義父夫妻を庇っている」

「・・・それで、どうするの?もしかして会いに行くの?」

「会いに行きたいだろ?演説スケジュールがネット乗ってたんだけど、しばらくスケジュールが乗ってなかった。狙って会えるとは思えないんだ。だからどうしようかなって」

「そうか、ありがとう。じゃあ、私は帰るよ。じゃあね・・・バイバイ」

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