第25話 考察マシンガントーク

「それは違うと思う。神前の叔父は神前を他の高校に転入させようとしているため、勉強の邪魔になることはしないと思う」

「なら神前玲奈は叔父が犯人であることを知らない」

「犯人の顔、もしくは声を覚えているはずだから知らないことはないと思う」

「なら神前玲奈は実の父親、実父が嫌いというのは」

「それもないだろう。神前は実父を尊敬していたはずだ。俺の行動力を褒めるときに、父親のようだと言っていた」

「なら神前玲奈は今の環境が心地いいと思っている」

「それもどうだろう。さっきも言ったが神前は叔父を“悪い人じゃない“と言った。逆に見れば、何らかの不満がある。それは進学高校に転入させること以外にもあると思われる。または実父に会いたいと思っているだけかもしれないが」

「なら叔父を庇っている」

「それは、否定できない。ただ、庇う理由がない」

「なら、今度はそっちを批判してくれ。庇う理由を言っていく」

「わかった」

「実の父親が政治的利用のためためにわざと誘拐させたため。知名度とか」

「・・・多分違うと思う。聞く限りの叔父さんの態度から主犯が実父ではないと思う」

「君がそう思うならそれでいいさ。では、神前玲奈の叔父夫妻に子供ができなかった。先ほどのプレッシャーと嫉妬に駆られ兄の子供を誘拐したという可能性、または兄弟がいるが神前玲奈のように有能ではない」

「これも否定できない。前者は確実に否定できない。そこまで踏み込んだ話をしていない。でも、後者は神前からは兄弟のことを聞いたことはないから違うと思う。その上、神前はレースゲームのスコアを見る限り、一人でゲームセンターに通っていた。兄弟がいるなら、ランキングに載ることもあるはずだ。それを俺に言っても不思議ではないはずだ。兄弟はいないと見ていいだろう」

「神前玲奈は叔父が捕まることを恐れた」

「これもだ、否定できる材料はない。でも、高校を変えようと、前の生徒会のイメージを払しょくするために行動する人間だから、庇ってもおかしくはないと思う」

「神前玲奈は叔父が可哀想だったから、当時の年齢を考え、直感で行動した。しかし今でもそれを引きずっている」

「否定できない。でも、可哀想と思う理由がない。ストックホルム症候群のように誘拐されて好意をもったという考えも捨てきれないけど、それなら神前は既に進学高校に転入していると推測できる」

「だいぶ見えてきたかな、有力なのはは“叔父夫妻に同情した”だね。」


 ここまでのことをノートにできる限りまとめ、結果として3つの考えが浮上した。

・神前は叔父のことを“悪い人じゃない”と考えている

・神前は犯人を知っている

・神前は何らかの理由によって叔父を庇っている

→叔父をかわいそうだと思ったから


 シグマはちょっと冷えて飲み頃になったハーブティーを一気に飲み干した。シグマのメモアプリには、今の会話のやり取りの全てが記録されていた。シグマのタイピング能力は恐ろしい。しかもパソコンで使うような質量のあるキーボードを使わず、デジタルで再現されたキーボードで会話全てを保存していたのだから本当に恐ろしい。

「なあ、シグマ。神前が庇っている理由を推測したのはいいけど、肝心の神前をなぜ誘拐したのかは話さなくていいのか?」

「そこまでする?そもそも原因を突き止めて何になるんだ?無謀だけど今から過去に戻って未然に防ぐ?」

「確かに、動機を知っても意味ないのか」

「そうそう、だから今問題になっているところだけを短時間で求めた」

「でもその問題を取り除くにはどうすればいいんだ。推測とは言え同情してるんだろ?」

「そこは君が考えることじゃないかな。ボクもう疲れた」

 すっかり冷えた西京焼きをつまみながら、メニューを流し見し始めた。やるだけやって終わり。自由というかなんというか。

 でもおかげで今何をするべきなのかを理解できたと思う。シグマに感謝しながら、備え付けられた箸をとり、西京焼きに伸ばす。

「おい、誰が食べていいって言った?」

「いいだろ、そんなケチるもんでもないし」

「まあいいか、ほらよ」

 シグマは西京焼きの皿をテーブルの中央に移動させた。シグマにお礼を言いながら再度箸を伸ばした。

 口に運ぶと西京焼き特有の麹の香りが口いっぱいに広がる。魚の臭みもなく、ちょうどいい味の濃さで日本酒や焼酎があったら飲みたいと思わせる塩辛さが癖になる。鰆の触感が絶妙で丁度いい良い触感。癖のない鰆を存分に生かした西京焼きだ。

「どう?美味しいでしょ」

「冷凍だってのに、ここで食べていい美味しさじゃないぞ、これ、しかも、このレベルでワンコインとちょっとだろ?他のお店が泣くぞ」

 誇らしげに笑うシグマだった。何から何までできるシグマが羨ましく、正直に言えば妬けてしまうが、シグマだからいいかと思ってしまう自分を認めている。だからこそ、勝負を挑めるのだった。


「本当にいいんだな」

「ああ、勝ったら手伝ってもらう」

「私が勝ったら?」

「お前が好きな高級アイスクリーム一年分でどう?」

「よし、乗った」

「おーい、準備はいいのか?二人とも、お前ら新しいラケット買ったばかりの初心者だろう?そんな賭け事するなって」

 シグマとラケットを買いに行った次の部活の日。コーチから次の大会に向け、チーム構成と実力テストを兼ねて総当たり戦をしたいと話が出た。各々初めは好きな人同士でやることになり、ラケットを買ったばかりの俺らは必然的に初戦で当たることになったのだ。コーチに審判をしてもらい、気兼ねなくやることにした。

「それでいいよな、シグマ」

「はい。問題ありません」

 準備体操で、腰をひねったり、手首足首を回しながら深呼吸をして緊張をほぐす。

「ふ~」

「まあいいか、お前らがいいならいい。準備はいいか?」

「「はい」」

「お、おう。ほらじゃんけんしてサーバー決めてくれ」

「「最初はグーじゃんけん、ポン」」

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