第22話 ヒントはふとした時に
俺にはシグマの行動動機がわからない。、でも、やっぱり、シグマが居なければ、何も始まらなかった。変革には痛みを伴う。その痛みを教えてくれたのだろう。
と今は思う。
「おーい、どうした?ぼーっとして」
「いや、何でもない。ちょっと懐かしいなって思ってな」
「なんだよ辛気臭いな。どうせろくなもの食ってないんだろ?ほら、牛だぞ」
「食べ放題なんだから食べなきゃもったいないよ」
「そうだな、頂くよ」
この後特になく、帰宅した。帰り際。
「また、どっか行こうぜ」
と問屋の只今のような当てのない約束を交わした。
家では最近では珍しく機嫌のよい純玲が出迎えてくれた。
「お帰り~。懐かしかった?純玲も行けばよかったかな?」
「そうだな、きっと二人も喜んだと思うぞ」
「病院じゃなければなー」
純玲に今日のことや明日の高校のことを話しているうちに夜になり、ぼんやりとテレビを見ていた時だった。
『いやあ~本日の市長選、非常に期待が持てますね。陣さん』
『他の立候補者は非常に良い方が揃ってますから、厳しいものだと思ってますよ』
『そういえば陣さんは、過去に娘さんが行方不明になったそうですけど~?』
『あの頃は大変でしたよ。今でも会えるなら会いたいですね。娘との思い出は公園に行ったことぐらいでして。星がね、綺麗な夜でしたよーーーーーー』
「これ、神前のことみたいだな・・・。いや、待てよ。もしかして」
急いで携帯を取り出し、調べ物を開始した。
『陣』という政治家は他にもたくさんいたが、今住んでいる市で娘が行方不明になったという経歴を持つ、今年の市長選の立候補者は一人だけ。陣彰人。そして、行方不明の娘とのエピソード。調べれば当時のことが書かれたネットニュースも見つかった。十三年前の事件だった。
『S県F市の市長選の立候補者の娘が行方不明に⁉』
五月七日。夜中にいなくなったRちゃんはご両親に何も告げずにいなくなったとのこと。おそらくS山の公園に向かったとのことで、捜索範囲を絞り捜索を続けているが見つかっていなかった。同月十日夜。親戚の宅でRちゃんを発見。親戚は同日の夕方にやってきたところを保護したとのこと。近所の人の証言により、警察が発見。親戚は陣氏に報告しようとしたが、Rちゃんが泣きだしなだめていたため報告が遅れたとのこと。また、Rちゃんは市長選が終わるまで親戚宅に預けられた。
気になることだらけだが一番気になるのは一つ。
「今もなぜ、神前は親戚と一緒にいるんだ?」
神前に昨夜調べたことを報告に行こうとしたが、会えない日々が続いた。
「生徒会長?ああ、今日風邪だって」
「会長?なんか早退したみたいよ?」
「かみちゃん?今日は見てないな~、生徒会室にも来てないよ」
まるで運命が邪魔をしているような不運だった。そんな中、部活見学期間が終わりようやく部活が始まった。部活のことなんて考えていなかったため、中学と同じ。そして“現代”と同じだった卓球部にした。変えてもいいかなと思ったのだが、今までのことを考えるとあまり余裕がないと思ったからというのも、選択した慣れている部活の理由だ。生徒会を考えれば帰宅部が良いとは考えた。それでも卓球にしたのはストレス発散になると思ったからだ。
新入生は経験者であろうと、筋トレやランニングなどの基礎トレーニングから始まる。
一旦神前のことは置き、目の前の部活に力を入れることにした。
「今日も、腕立て、腹筋、背筋五十回の三セットね。終わったら外周十週と、素振りね」
「はい」
篩をかけている面もあるのだろう。若干キツメめのトレーニングだ。だが、そんなキツメのトレーニングだろうとこの時代の体が悲鳴をあげていた。
「おい、そこの一年。もう少し頑張ってスピード上げろ、あとちょっとで終わって、五分のインターバルの後に素振りな」
「わかりました・・・ってわかってるっての」
台が使えるのは休日の部活の時間だけ。それも、大体が共同で使っている。この高校専属のコーチが一台に一年を集め、球出しをしてその人の癖を直していく。
そんな感じであっという間に一ヵ月が過ぎて、初夏が始まりそうな暑さになってきていた。神前に会えないことも疑問だったが、さらに疑問だったのはシグマも同じ卓球部に入ったことだった。
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