第11話 眼鏡談義ができなかった

休み時間は先生の中で誰が一番可愛いのか、高校で知り合った、友人らと馬鹿な話で盛り上がったりしていた。なんだかんだで、過去にいるという感覚を時々忘れそうになる程充実していた。

放課後。神前に一度挨拶をしてから、昨日行けなかった部活を回った。グラウンドを使う部活を手早く終わらせ、室内の部活に向かった。

「あれ?神前、さん・・・?」

 神前が職員室に入っていくのが見えた。もう一日しか残されていないのに、何をしようとしているんだろうと疑問に思ったが、神前のことだからきっと何か考えがあるんだろうと、思考停止させて同じく一階の科学部に向かった。科学部になぜか勧誘されたものの、野球部に比べれば円滑に進んだ。

「なんだよ、白衣が似合うから入らないか?って。あの女の先輩。すごかったぞ。無理やり着せられて写真を撮られた時は、どうなるかと・・・っと。あれ、まだいる」

 なんだかんだ、気になり職員室の前を通ると神前はまだ職員室に居た。話し相手は教頭のようだった。盗み聞きするのはよくないと思うが気になってしまい。足を止めた。結構言い合っているようで、教頭は首を横に振っていた。助け舟を出したところで、何もできないのは知っているので止めた足を図書室に向けた。図書室は文芸部の部室として使われている。文芸部といいつつ実質的な帰宅部であるため、図書室をとりあえずで部室にされているはずだ。

「は、はい。なにか御用でしょうか」

 図書室に入ると、カウンターで見知った顔を発見した。図書委員と話し終えて出口に向かって歩こうとしてこちらに気付いた。“現代”で神前と一緒に居た、眼鏡の女性。髪の長さは腰ぐらいまであるが、アンダーリムの眼鏡は変わっていなかった。否、度が多少軽くなっていたのを見逃さなかった。凝視してしまったせいで、向こうも気づいた。

――――小暮琉亞。この頃なら話せると思って、ついふざけてしまう。どうして大人になると、同級生に対してかしこまってしまうのだろうか。

「もしかして、ハルくん?」

「まってくれ、今、琉亞の眼鏡断層を見ているんだ」

「眼鏡、だん、そう?」

熱く語ろうとして、後ろから誰からに痛くない程度に加減されて叩かれた。振り返ると、冬彦が複数枚丸めたA4用紙を持って自分の肩を叩いていた。

「痛い、何しやがる。俺はただ」

「ただ、なんだ?言ってみやがれ!このド変態眼鏡フェチが‼返答次第でもういっぺん叩くからな‼くそ、なんか嫌な予感がしてきてみれば、いつもこうだ」

「わ、わ・・・」

 あたふたと慌てる琉亞を蚊帳の外にして、図書室だというのに冬彦に眼鏡の素晴らしさを説く。

「あのな、眼鏡は素晴らしいんだよ。ああ、聞きたいだろう?何が素晴らしいって?そりゃもちろん、テンプルのデザインに、レンズ、視力の矯正というだけでなく、かけている人の可愛さや、爽やかさなどをフレーム次第で引き出してくれる。そして!何より、ぶ厚い眼鏡を斜めから見た時のレンズによる歪みにより、向こう側の景色が少しズレて見える。そう!眼鏡断層!そもそもな冬彦・・・」

 冬彦は呆れ、琉亞は若干頬を赤らめていた。俺は熱が入りそんな二人を無視して続けようとした時、冷たい声が聞こえた。

「あの、図書室では静かにお願いします」

 先ほど、カウンターで琉亞の手続きをしていた図書委員に止められてしまった。見渡すと、眼鏡をかけている女子は眼鏡ごと目を隠し、男子は自分の眼鏡を手に取り首をかしげていた。

「っと、悪い。変に熱くなった。で、琉亞はもう図書室を利用してるのか」

 琉亞はまだ若干頬を赤らめながら、俺の方を向いた。片目は前髪で少し隠れて、こっちを向いているのかわからないが、会話しようという意思はあるようだった。

「うん、今日から借りてもいいよって、担任の先生に聞いたから。借りに来たの」

「そうか、変わらないな。なんか安心したよ」

「へ?どういうこと?結構色々変わったと思うけど」

「なんでもないよ」

 “現代”と比べて一番変化がないのは琉亞だろう。“現代で”髪を切っていたぐらいだろうか。地味に見えて、結構体つきがグラマラスなのは本人も気にしていた。中学のころから周りとの変化に困惑していたが、高校では同じような境遇の人がいることを知り、落ち着くまでに一悶着あったのも懐かしい。

「で、いいのか?冬彦。仕事投げ出してきて」

「いいわけない、けど、琉亞になにかあったらと思うと」

「一応従妹なんだっけ?だとしても過保護じゃないか?」

「お前みたいな変態が寄ってくると困るからだ。俺はもう行く。琉亞、こいつに何かされたら、電話するんだぞ。いいな、眼鏡になにされたか言うんだぞ」

「心外だ、眼鏡自体に何かするなんてとんでもない」

 ため息を一つ吐いて生徒会室に向かった。残された二人は「じゃ、俺ちょっと用事あるから、また」「うん、また」と解散した。長い付き合いであり、長い文言は必要なかった。

 琉亞と冬彦のやり取りをほぼ聞いていた文芸部になぜか睨まれながらも、滞りなく終えて他の部活に向かった。

今日で終えるためにちょっとロスした分を取り戻すべく、駆け足で各部活を回ることになった。野球部以上に大変な部活はなかったが、ボードゲーム部はボードゲームで勝負しないと話を聞いてくれなくて困った。なんとか、引き分けにして話を聞いてもらった。

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