第6幕

 ・・・もし僕が先生を殺したら

なぜか心の中でそんな文章が浮かんだ。そしてそれを元に僕の脳が勝手にその様子を再現してしまう。包丁を先生の腹に刺すのだ。血がにじむ。その温かさまで感じ取れてしまう。嫌だ。違う。

自分はそんなこと考えたくない。考えるのをやめろ。そう必死に祈っても無駄である。僕は包丁で先生を刺し続けた。先生は僕の方を見る。そうとう引きつっていたがその目はなぜか申し訳なさげだった。自分の心をキュウと縛った。これは夢ではない。自分が主体的に考えているのだ。もしかしてだが自分は先生を殺したいのではないか。違う。そうじゃない。全く違う。僕は先生を殺したいなんて一ミリも思っていない。僕は先生が好きだ。この世界の何よりも愛している。なのに、なんでだ。なぜ殺そうと思ったのだ。僕は先生を憎んでいるのだろうか。違う。違う。嫌だ。


血の温もりが頭から離れない。


「もうやめて」


小さな声で、押し出すように、言った。

そうつぶやいたとき、僕の体は汗でぐっじょりであった。


空が若干、明るくなっていた。


僕は少しの憂鬱感を残して空っぽになっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る