120話 骸装


 黄泉の門から更なる力が溢れ出す。また何かをされる前に止めようと距離を詰めるが門から放たれた冷気の嵐に呑まれてふき飛ばされる。


 嵐を斬り裂いて視線を戻すと黄泉の体に冷気と骸達が纏わりついていく。凄まじい密度で重なり変形していくと骸達はひとつの禍々しい鎧へと変貌した。


「貴様のものを真似てみたが悪くない。さしずめ骸装がいそうといったところか?」


 鎧を纏った黄泉は剣を手にすると一瞬で距離を詰めて斬り掛かってくる。すぐさま剣を交差させて受け止めるが今までとは段違いの重い刃が押し込まれる。


(強いが……力ならまだ俺に分がある!)


 力を込めて剣を打ち上げる。剣と共に上昇した黄泉に向けて白亜の斬撃を放つが鳥の様に翻って避けながら再び迫ってきた。


 黄泉が息つく暇もなく振るってくる剣を双剣で交互に受ける。十合ほど打ち合ったところで白剣を思い切り黄泉の剣の腹に叩きつけると剣身が半ばから砕けた。


 すかさず黒剣を振り下ろす。だが首に向けて振るっている腕が黄泉の鎧から飛び出した幾つもの腕に掴まれ止められた。


「くっ!?」


「“轢死せよ”」


 僅かな隙を突かれて飛ばされる。すぐさま体勢を直すと黄泉の鎧に幾多もの口が現れて動いた。


「“轢死せよ”“焼死せよ”“溺死せよ”“圧死せよ”“毒死せよ”“感電死せよ”“窒息死せよ”“斬死せよ”“凍死せよ”“喰死せよ”“病死せよ”」


 一斉に放たれた言霊が襲い掛かる。降り注ぐあらゆる死因はひとつひとつが同時展開した鎧を震わせる威力を有していた。


(受け続けるのは不味いな)


 翼から破壊の光と漆黒の武具を放出して迫る言霊を相殺する。生まれた一瞬の空白を使って飛び上がると黄泉に向けて双剣を振るった。


 放たれた漆黒と白亜の斬撃を黄泉は両腕の装甲で受け止める。言霊の嵐が止まると同時に再び距離を詰めて上から帯電した尻尾を叩きつけると黄泉は衝撃を流せず鎧に罅が入った。。


「流石だな。次はこれでどうだ?」


 罅が入った箇所から冷気が漏れ出る。触れている尻尾が崩れる気配を察して咄嗟に離れると黄泉の全身から放たれる冷気によって周囲が凍てつき大気が光を反射してきらめく。


「凝縮した黄泉の冷気。触れれば魂すら凍てつかせるだろう」


 黄泉の腕が振るわれると冷気が大気を凍らせて迫る。流星の如き軌道を凍らせながら襲い来る冷気が掠めただけで鎧の表面に霜がついた。


(まともに受ければ俺ごと……か)


 炎を付与した“黒刃嵐舞ストームブリンガー”を放って冷気を蹴散らしながら黄泉を捉える。翼から光と闇の風を噴出しながら闇の嵐のを潜り抜けて嵐を纏った脚で黄泉の胴を蹴り抜く。


 鎧を砕かれた黄泉が凄まじい勢いで黄泉の門へぶつかる。だが周囲の骸達が吸収され鎧を復元しながら立ち上がった。


「凄まじい力だ。これほどの力を振るえるのは神の中でもどれだけいるのか……だが」


 黄泉の兜の奥から覗く眼が俺を捉えながら言葉を続けた。


「果たしていその力、いつまで振るえる?」

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