118話 意味
瓦礫を跳び移って登っていくと視界に黄泉を捉える。雷を纏いながら背後から双剣を交差する様に斬りつけた。
「……まだ、抗うか」
斬りつけた傷が塞がっていく。黄泉は振り返ると見ると熱の籠らない眼で俺を見た。
「……世界は生と死によって巡っている。あらゆるものはいずれ朽ち果て終わりを迎え、新たな命が生まれ世界を巡らせる」
黄泉は俺に諭す様に語り出す。聞き分けのない子供を言い聞かせるかの如く。
「それが生命の意味だ。ただ生きて死ぬ事だけが役割であり使命……だが貴様達はそれ以外のものを求めた」
それは多くの死を見てきた者の言葉。途方もないほどの死という歴史を見続けてきた者の言葉だった。
「不要な殺生、無価値な争い、無駄だらけの制度、一方的な搾取による格差、互いを理解できぬ故の憎悪と嫌悪、全ては貴様達の過ぎた欲望によって起こり、あるべき世界の姿を歪めている」
黄泉の眼には何も映らない。命への憎悪も執着もなく、ただ必要だから為すだけという意思が伝わってきた。
「故に我が終わらせてやろう。貴様達が持つ僅かな時間を無意味な行いに費やす事に終止符を打ってやろう……それを神たる我自らが為そうと言うのに抗う気か?」
黄泉から凄まじい重圧が放たれる。屈強な戦士だろうと無神論者だろうと平伏してしまうほどの重圧を受けながら俺は相対する。
「アンタの言う通りだ。人は無意味だと思うものに執着したりするし、無駄な事やくだらない事に熱を上げたりもする……だが、
「……」
「他からすればそんな事かと思う様なものでも……本人が自分の時間を、アンタからすれば僅かな時間を費やすに値する意味を見出だせたならその人にとっては無意味じゃない」
「……」
「アンタみたいに最初から高い場所にいる奴には分からないだろうな。アンタの言う無意味が繋いできた歴史がな」
「……もはや、問答は不要か“轢死せよ”」
不可視の力が迫るのを感じ瓦礫から飛び降りる。顔を通りすぎる衝撃が起こす風に煽られながら地上へと落ちていく。
「軍装」
漆黒の剣が弧を描く。剣身から放たれる闇が漆黒の尾を引いて宙に軌道を描いた。
「竜装」
白亜の剣が輝く。剣身から放たれる光は空間に白亜の線を残していく。
「
宙に残った漆黒と白亜が俺を中心に拡がる。闇は漆黒の軍勢となって鬨の声を上げ、光は白亜の竜となって咆哮を放つと俺に向けて集まっていった。
「“
オヅマの空に鈍色の輝きが拡散する。生きとし生ける者がその眩さに眼を覆う中で黄泉だけがそれを見ていた。
黄泉の横を高速でそれが横切る。一拍の間に世界から音が消えたかと錯覚した瞬間、爆風と爆音が巻き起こって背後で怪物を形成していた黄泉の門の大部分が破壊された。
「見出だし、費やし、託し、受け継がれていく」
それはヒヅチでの戦いを通して手に入れたもの。ふたつの力をひとつの力にする誇り高き武人の姿から見出だしたもの。
「それが人が手にした力だ。黄泉」
手に取るは漆黒と白亜の剣。カオスクルセイダーの漆黒の装甲にハイエンドの白亜の竜鱗を纏った鎧の背には白亜の竜翼と漆黒の焔翼が拡がっていた。
「その身で……知れ!」
人と神の戦いが再び始まった。
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