117話 不屈
「些か力を出しすぎたか」
黄泉が見下ろした先で瓦礫の山が散乱する。かつての威容は跡形もなく、目の前の惨状の中心にいた者達も無事ではないだろう。
「余興もここまでか。人ながら存外楽しめたぞ」
黄泉が門へと向かって浮上していく。それから少しして瓦礫の山のひとつが揺れ動くと瓦礫が隆起して下から岩の蓋の様なものが出てきた。
「ふん……ぐぅ……」
樹の根が張った岩の蓋を持ち上げてどける。俺達の周囲を覆っていた樹木が役目は終えたとばかりに枯れていった。
「なんとか……間に合いましたか」
勾玉を淡く輝かせたアマネが滝の様な汗を流しながら膝をつく。セレナとシュリンは展開が解除されラクルも片膝をついていた。
「ツクヨの力でお三方の神器を共鳴させました。防ぐ事こそ出来ましたが皆様に負担……を」
「お母様!」
言い終える前に倒れたアマネにヒノワとアメリが駆け寄る。黄泉の攻撃を防ぐのにかなりの無茶をしたのが理解出来た。
見上げると黄泉の門が更に変容していく。数多の骸が外郭を形成していき、巨大な怪物の頭を思わせるものとなった門が咆哮を放つと周囲の瓦礫と共に黄泉兵や魔物達が吸い上げられていった。
(これが本物の……上位の神の力か)
全力ではないというのに俺達を圧倒する力、目の前の事を容易く起こす規模、これまで相対した事のない根本から違う存在を身を以て知った。
(アンタならどうする? ……いや、聞くまでもないか)
思わずかつての憧れならばと考え自嘲する。あの男ならば答えはひとつだ。
ならば俺も迷う必要はない。何よりもまだ試してない手がある。今までは出来なかったが
「ラクル」
「……ああ、任せた」
ラクルが俺の意図を察して頷く。すると水が俺を包んで傷を癒し、全力で動いても問題ないくらいには回復した。
「すいません。これしか出来ませんが……」
「いや、助かる」
俺がそう返すとセレナは微笑みを浮かべるも限界を迎えて力なく崩れ落ちる。すぐにシュリンがセレナを支えた。
「ベルク」
アリアに呼ばれて振り返る。するとアリアと俺の唇が重なって息が交ざり合った。
「約束して。必ず生きて帰ってくるって」
「……ああ、まだやりたい事もやらなきゃならない事も残したままだからな」
アリアと約束を交わして瓦礫の上に出る、七枝刀を手にして命じた。
「八雷神、俺に宿れ」
「カカ、承知した」
八雷神が七枝刀から俺の体に移る。身体中に雷光が迸り周囲に飛散する。
カオスクルセイダーとハイエンドを手に取る。そして黄泉と門へと向けて舞い上がる瓦礫に跳び移っていった。
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