116話 格


 神殺しミストルティンの刃が黄泉の肩から腰に掛けて深く斬り裂く。骨を砕き心臓を断ち斬った一撃は誰から見ても致命傷だった。


 黄泉の手から剣が落ちる。剣が地面を叩く音が響く中で空の手を俺に向けて呟いた。


「“斬死せよ”」


 斬撃が俺に襲い掛かる。これまでと比較にならないほどの数と威力が降り注ぎ、ついには鎧を斬り裂いて俺の体に届いた。


「かはっ!?」


「ベルク!」


 軍装が解除されて血塗れになった俺を水の腕が掴んで引っ張る。入れ換わる様にアメリが前に出ながら矢の雨と光弾が黄泉へと迫った。


 矢が黄泉の体に突き刺さる。光弾が黄泉の腹に穴を開けると続けてアメリが振るった刀が黄泉の首を断った。


 断たれた首を黄泉の体が動いて掴む。それと同時に放たれた前蹴りがアメリを蹴り飛ばすと首を空に向けて言霊を放った。


「“悉く爆死せよ”」


 それが響いた瞬間、城一帯を覆っていた結界が爆風と轟音と共に破壊される。結界が粉々になって光の粒となって消えていく中で黄泉は首を戻した。


「不死を斬る刃か……確かにそれならば末端の神を殺せるだろう」


 黄泉の冷気が流れ込むと同時に体の損傷が塞がっていき元の姿へと戻っていく。セレナの治療を受けている俺を見た。


「だが我は死の概念。この体は我が力の僅かな欠片しか与えられぬと言えど我の一部と化している……貴様が倒したものはいずれは消えるものであったが死は消えるものではない。故に我にその刃は通じぬ」


「……全員、俺の後ろに!」


 黄泉が手を翳した瞬間、漆黒の大盾を展開して前に出る。前に出た直後に不可視の力が襲い掛かってきた。


「……貴様達の力は大したものだ。人の身でありながら人ならざる力を使いこなし、あまつさえ神の命に届くほどの強さを有するまでに至ったのだから」


 絶え間なく襲い掛かる衝撃に踏ん張って堪える。すると壁から飛び出したアリアと鎧を修復したラクルが左右から剣を振るった。


「だが……それを踏まえた上で言わせて貰おう」


 黄泉の体から幾つもの骨の腕が飛び出てアリアの剣とラクルの斬馬刀を掴んで止める。翳した腕に新たなふたつの口が現れると“轢死せよ”と唱えてふき飛ばされた二人の展開が解除される。


「貴様達のやる事は無意味だ」


 シュリンが二人が時間を稼いでる間に生成した大型弩砲バリスタから極大の矢が放たれる。大気を貫き唸りを上げて迫る矢は黄泉が触れると同時に朽ち果てた。


「“悉く轢死せよ”」


 城一帯に不可視の力が降り注ぐ。衝撃が全方位から襲い掛かり、あらゆるものが壊れる音が轟いた。

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