103話 格の違い(帝国side)
ミルドレア帝国の修練場。騎士たるもの常に武を磨く事怠るなかれと充実した設備と広大な敷地に立てられおり、その一角で“雷穿騎士”ランディルが目隠しをして槍に雷を纏わせながら振るっていた。
槍が振るわれる度に吊り下げられた丸太が雷で撃ち抜かれる。最後のひとつを槍で貫くと目隠しを外したランディルは息を吐いて地面に座り込んだ。
「槍捌きに鋭さが増していますね」
ランディルが声を掛けられた方に向くと“深緑騎士”アルクトスがジョッキを手に近付いてくる。差し出された水が入ったジョッキにを服に掛かるのも構わず呷って飲み干した。
「ぷはぁ! ありがとよ」
「どういたしまして……それにしても」
アルクトスは汗だくになったランディルをじっと見る。それに気付いてランディルは疑問を浮かべながら聞いた。
「なんだよ?」
「いえ、誰に言われても実戦に勝る鍛練はないと言っていた貴方が最近は自身を追い込む様な鍛練を始めて、しかも続けているのはどういった風の吹き回しかと……」
「おいこら、嫌味ったらしく言うんじゃねえ」
ランディルが顔をしかめながら愚痴るもアルクトスは何処吹く風と受け流す。一見すると馬が合わない二人だが互いの実力を認めているからこそ歯に衣着せぬ物言いが出来る間柄だった。
「……前にベルクがうちに来た事あったろ」
「前……確か貴方の管轄地で起きた海獣の件ですか」
半年前ぐらいにランディルが管轄していた海で突然変異した魔物に船が襲われるという事が起きた。神出鬼没に現れては船の大小関係なく襲う魔物に手を焼いていたランディル達の下にヴィクトリアの命で近くの調査をしていたベルクが派遣された。
「ああ、俺も海獣に乗じて火事場泥棒みてえなのしやがる奴の対処があったから諸手を上げて喜んだんだが……だがまあ、うちは馬鹿ややらかした奴等が多いだろ?」
「そうですね、貴方の団は仕事の厳しさから矯正には最適ですから」
ランディルの騎士団は海を管轄しているのもあってか仕事の場は船の上だ。孤立した環境に置いて指揮系統や統率が失われない様に徹底的な上下関係を叩き込まれる状況はしばしば問題ある者の矯正に利用されている。
中でもランディルは面倒見の良さや人柄から配下の騎士達からは慕われており、多くの問題児をまとめ上げた功績を持っているのだ。
「あいつが気に入らねえって奴が同じ考え持ってる奴等を唆してな……俺が別件に対応してる間に力試しだとかいちゃもんつけて50人くらいで袋叩きにしようとしやがったんだよ」
「初耳ですね」
「言ってねえからな。まあ話持ちかけられた一人が知らせてきた時は流石にヤベえと思って急いで駆けつけたら見ちまったんだよ」
「見た?」
「馬鹿共が伸されてたんだよ、魔術もあの武器も使わねえでな」
ランディルが駆けつけたのは半数程が倒されたところだった。四方から襲い掛かる団員達がベルクによってある者は悶絶して倒れ、ある者は同士討ちになり、ある者は壁代わりにされて瞬く間に倒れていった。
「俺はよ、自分の強さに結構自信があったんだ。だけどあいつには勝てるイメージが微塵も湧かなかった」
「それほどですか……」
「あいつが強いのはあの武器があるからだなんて思ってたがよ。見当違いも良いとこだったわ」
あいつは魔術が使えなくとも、あの武器がなかったとしても一国と戦わなければならなくなったら戦って勝ってしまえる……それだけの力がありながらベルクは驕る事も鍛練も怠る事もない。
「なんつうかあいつを見てたら、当てられちまったよ……俺もまだ強くなれんじゃねえかってよ」
「……若いですねぇ、些か羨ましく思います」
「俺とそんな歳離れてねえだろ。てかお前はあいつをどう思ってんだ」
ランディルが聞き返すとアルクトスは顎に手を添えながら考え、そしてぽつりと答えた。
「私としては一年前の自分を褒めたいですな」
「んだそりゃ」
「あの時、もし判断を急いて……仮に彼が敵となっていたら」
アルクトスは笑みを消して真面目な表情と声音で続けた。
「帝国はヒューム大陸の統一どころか、一人の化物によって滅ぼされていた事でしょう」
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