102話 宣告


(八雷神! 聞こえるか!?)


(……、……)


 振るわれる刀を後ろに跳んで避けながら七枝刀に心の中で語り掛けるが上手く伝わっている感覚はない。


薙ぎ払われる刀を転がる様に避けると囲んでいた者達が武器を振るってきて処刑場の真ん中に戻る。シオンは両手に握った刀を構えながらゆっくりと歩いてくる。


 ……斬り落とされた筈の右腕や傷は赤黒く変色して繋がっており握っている蛇の頭を模した鍔の刀は魔物なのか呼吸する様に蠢いている。


 再び振るわれた刀を黒刀で受ける。すると蛇の顎から炎が吹き出た。


「くっ!?」


 すかさず振るわれた刀から雷が放たれる。咄嗟に背を向けて七枝刀で受けるも体中に衝撃と痺れが走った。


「我が造り出した生体魔剣だ。シオンは生前の剣術を使えるが貴様は神器はおろか通常の術さえ使えん……惨たらしく死ぬが良い」


 振るわれる双刀を刀と剣で受ける。武器を振るわれるギリギリで止まりながら立ち上がる。


「……シオンは優れた武人だった」


 剣と刀を構えながら呟く。シオンは双刀に炎雷を宿して迫るのを真正面から受け止めた。


「部下の為に、民の為に、国の為にその命を懸けて戦ってきた……己の誇りを最後まで守り貫き通した漢だった!」


 押し込まれながらも腹に前蹴りを放つ。生前のシオンだったら受けなかった一撃だが物言わぬ骸と化した今はまともに受けてふき飛ぶ。


「その骸を弄ぶ事に何も思わないのか? 死した者達の尊厳を貶める事を、矜持を汚す事を恥ずかしいとは思わないのか?」


 俺の問い掛けにムドウは冷めた眼で見下ろす。そして冷徹な声音で答えた。


「くだらぬ。全ての生きる者は死ねばただの骨肉の塊、糞の詰まった袋だ。意味のない争い、意味のない在り方、意味のない生にしがみつく愚かで醜く、救い難き命の脱け殻をただ腐らせ土に還すよりも畜生の餌になるよりも有効に活用しているだけだ……それの何が悪い?」


 ……頭が冷静になっていく。だが頭が冷えていくのに半比例して内から湧き出る感情が剣を握る力を強くする。


 深く息を吐いて立ち上がったシオンを見据える。シオンは感情の宿らない眼で俺を捉えると蹴りの痛みなどないと言う様に再び構えた。


「とっとと四肢を斬り落とせ。シオン」


 シオンが炎雷を宿した双刀を振り上げながら迫る。それと同時に刀を鞘に納めながら踏み出した。


 振り上げられた刀が俺に振り下ろされようとする。それよりも早く一歩踏み込んで鞘から刀を振り抜くとシオンの胴が腰から断たれる。


 勢いを殺さず刀を上段から振り下ろす。全体重と力が乗った刀はシオンの上半身を脳天から真っ二つにした。


 断たれた胸の中央に呪符がある。呪符は燃える様に崩れ落ちるとシオンの骸も崩れていった。


「……おい」


 残心を維持したままムドウを睨む。視線だけで人を殺せるなら一瞬で殺せるだけの殺意を込めて。


「ちまちませずにまとめて来い。お前が蘇らせた全てを斬り捨ててから……叩き潰してやる」


 ムドウは歯軋りをすると腕を錫杖を振るう。錫杖の音が響くと骸の戦士達が一斉に襲い掛かってきた。

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