101話 分断


 見ただけでただ者ではない事が感じ取れた。まだ距離があると言うのに黄泉兵達が有している凍てつく様な魔力が男を中心に放たれており、。


「お前がムドウか」


「如何にも……貴様と相対するのは初めてとなるな黒嵐騎士」


 ムドウは淀んだ眼で俺を見る。すると眼に憎悪の焔を宿して歯軋りすると怨嗟の声を吐き出した。


「その眼……纏う気配、見間違えるものか! やはり貴様はカムツヒの系譜か! 二度と現れぬ様に策を弄して僻地に追いやり血を薄めさせてきたと言うのに……忌々しい!」


 ムドウは手にしていた錫杖で地面を突くと幾つもの方陣が浮かび上がる。赤黒く輝く方陣から黄泉忍が現れて襲い掛かってきた。


 俺とアリア達は四方に分かれて応戦する。背負っていた七枝刀を抜いて雷を放ちながら薙ぎ払って黄泉忍を蹴散らしながらアマネに声を掛けた。


「アマネ、黄泉の門の場所は分かるか?」


「……真下から強い気を感じます。おそらく城の地下に」


「分かった。シュリン、地下に繋がってる場所は分かるか?」


「あれ、あの黒い塔」


 迫っていた黄泉忍を一斉に射貫いたシュリンが塔を示す。その間にもムドウは更に方陣を展開して魔物達を呼び出していた。


(先に奴を片付けるべきか)


 刀を手にして闇を纏わせる。闇が渦巻く刀に七枝刀の雷を合わせて振るうと黒い雷の嵐となって黄泉忍と展開されていた方陣が砕けていく。


 多重展開した結界で雷を防いだムドウに跳躍して七枝刀を振り下ろす。ムドウは錫杖で浮けると足下に方陣を展開した。


(これは……転移陣か!?)


 気付いた時にはムドウの体が陣に沈んでいく。陣の範囲内に入った俺も不可視の力で引っ張られていた。


「アリア! 全員で黄泉の門を封印しろ! ムドウは俺が倒す!」


 こちらに駆けつけようとしていたアリアにそう伝えて転移陣の中に落ちる。濁流に呑み込まれる様な感覚を味わう事になったがすぐに宙に放り出された。


 宙で体勢を直して着地する。立ち上がって周囲を確認すると四方を囲む高い壁に地面の染み、そして独特の血生臭い残り香が鼻を刺した。


「処刑場か」


「そうだ。貴様を殺す為のな」


 ムドウが壁の上から俺を見下ろす。カオスクルセイダーを刀からクロスボウに変えようとするが反応がない事に気付いた。


「無駄だ、この場には神器の力を封じる結界が展開されている。通常の術も同時にな」


 試しに“風の加護フォローウィンド”を詠唱してみるが発動しない。魔術の起動そのものが止められている様だ。


「貴様はただでは殺さん……その五体を粉々にして切り刻み、灰すら残さず焼き尽くして存在を消し去ってくれる!!」


 ムドウ控えていた黄泉兵に指示を出すと四方の扉が開く。そこから様々な武装をした生気のない者達が現れて包囲してきた。


「我が術によって蘇らせたかつてヒヅチで名を馳せた者達だ。特にそれは貴様には感慨深いであろう?」


 包囲してきた者の中から一人が進み出る。それが変わり果てた姿となっても間違える筈がない。


「さぁ、今度こそ奴を殺せ! シオン!」


 異形の刀を手にしたシオンが俺に迫った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る