99話 死に抗う者達(連合軍side)


 時間は少し遡り……。


「今回の戦いの勝利条件はふたつ、ムドウを倒す事と黄泉の門を閉じる事だ」


 幕舎に集まった将達の前で俺は説明をしていた。


「だから俺達に加えアマネ、ヒノワ、アメリは大物を仕留めたらすぐに天堂城に突撃する。貴殿方にはその間に外の黄泉兵達が来ない様に惹き付けて頂きたい」


「惹き付ける、ですか……しかし我々は二万五千に対し相手は三万、神器の担い手なしでは惹き付けるだけでもかなり分が悪いですぞ」


 将の一人が策はあるのかとでも言う様に問い掛けてくるが想定していた事なので卓上の地図を示しながら答えた。


「確かにこのまま戦えば犠牲も多くなる。だから……」






―――――


「設置は済んだか!?」


「大丈夫です!」


「良し! 総員後退せよ!」


 突撃を指示していたイルマを筆頭とした将達の号令で連合軍が下がる。波が引く様に下がった連合軍に一拍遅れて黄泉兵達が迫るが各隊に配属された術師が一斉に術を起動させた。


 その直後に一直線上に炎の柱が上がる。並んで炎の柵となった柱に黄泉兵は突っ込んで燃え上がって倒れるのもいれば隙間を通るも燃え移ったりして突撃が僅かに遅くなった。


「今だ! 放て!」


 更に号令が下ると矢が一斉に射たれる。弧を描いて黄泉兵達に降り注いだ矢には呪文が書かれており、黄泉兵に刺さると刺さった箇所が急速に腐敗した様に落ちた。


(黄泉兵はヒューム大陸では不死アンデッドと呼ばれる種の魔物だ。だから火や魔除けの術はかなりの効力がある)


(突撃して押さえてる間に仕掛けを施し、引き込めれば単純な命令しか実行できない下位の黄泉兵は対応できる筈だ)


「……これほどまでに嵌まるとはな」


 イルマがごくりと唾を呑みながらも戦局を見極める。すると二方向から巨人と獣が炎の柵を越えてきた。


(だが飛空兵や上位のものは越えてくる可能性がある。飛空兵はともかく上位の巨人や獣は……)


「あはははははははははっ!」


 笑い声と共に巨人の背丈を超える跳躍で大剣を振りかぶったセツラが凶悪な笑みを浮かべながら振り下ろす。巨人の頭が兜ごと割られて倒れた。


「あーもー!? 柄じゃない!」


「むん!!」


 獣の脚回りをヒルコが水蛇をまとわせて動きを止めるとフドウが四肢を斬り落とす。倒れた獣の胴を炎を宿した剣で焼き斬り、ヒルコは術と合わせて頭を破壊した。


「御託を並べてる暇があるくらいに余力はある様だな。行くぞ」


「だぁー! 新しい大将はシオン様以上に人使いが荒いなぁ!?」


 ヒルコが普段の気だるさを返上してフドウに続く。三人はベルクの指示で戦場を駆け回って上位の黄泉の魔物を相手取っていた。


(これならば持ちこたえるのは可能かも知れん)


 イルマはそう考えるも楽観視は危険だと自分を戒めながら次の策へと移る様に命じた。

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