97話 出陣


 五日後、俺達は集まった連合軍を高台から見下ろしていた。


「壮観だな」


「総勢二万五千の大軍だもの。ヒューム大陸でだって早々見れないと思うわ」


「……これだけの軍を率いるのは歴史的にも数えるほどだろうな」


アリアとラクルの感想に少しだけ口角を上げながらも俺は深呼吸して気を引き締める。拡声の魔道具を起動させて連合軍全員に声が行き渡る様にすると兵達に語り掛けた。


「今を生きるヒヅチの戦士達よ」


 風に乗って俺の言葉が拡がっていく。向けられた兵士達の視線全てを受け止めながら俺は言葉を続けた。


「これから我等はオヅマへと進軍する。お前達も知っての通りオヅマは黄泉の魔物達を呼び出し操っている……そしてこれから戦う黄泉兵はこれまでよりも強く恐ろしい存在となっているだろう」


 兵達の息を呑む気配が伝わる。兵達の戦う事への恐怖を感じ取りながらも俺は言葉を続けた。


「まず言っておく。死にたくないなら逃げて貰って構わない」


 俺の言葉に兵達だけでなく各国の将達も目を見開く。その様子を見ながらも言葉を紡いだ。


「だが……この戦いに我等が負ければ黄泉の魔物達がヒヅチの生きとし生けるもの全てを根絶やしにするだろう。そしてその牙はやがて世界へと向く」


 兵達は一人残らず俺の言葉に聞き入っている。そのタイミングで俺は問い掛けた。


「お前達はそれで良いのか? ヒヅチの戦士は己の命よりも一人でも多くの敵を倒す勇敢なる者だと聞いている。俺が戦ったシオンもかつてヒヅチで生きたお前達の祖先もそうだった筈だ」


 ヒヅチ特有の精神性と言うべきかゴモンを始めとした戦士達は一度戦うと決めたら文字通り命と引き換えに戦う強さがある。だからその心を滾らせる。


「お前達の祖先はお前達が生きる今を繋ぐ為に命を捧げてきた。死を恐れながらもそれより守りたいものがあるからこそ戦った筈だ……そんな偉大な戦士達が守り繋いできたものが絶えても良いなら武器を捨てて逃げれば良い」


 魔力を放出しながら兵達を見据える。そして今までより強く大きな声で叫んだ。


「答えを聞かせろ! 今ここで逃げて死を恐れ僅かでも生き永らえるか! 命を掛けて未来に繋ぐか! お前達に祖先が繋いできた誇りがあるのならば武器を掲げてみせろ!」


「「「応――――!!!」」」


 俺の言葉に兵達が手にする武器を掲げる。各国の将達も当てられたのか刀を掲げていた。


「ならば戦え! 黄泉の門を開きヒヅチを滅ぼさんとするオヅマの野望を砕き! 未来を切り開く! 出陣だ!!」


 俺の号令に兵達は一斉に動き出す。これならば予想より早く動く事が出来そうだ。


「……相変わらず人を乗せるのが上手いですね」


「こんなにひとつに揃った音は初めて」


「少しでも不安を取り除けるならこれぐらいはやらなきゃな」


 本来ならもっと鼓舞や激励が良いとは分かっているが俺にはこの形でしか士気を高められない。だが一時的な総大将としてなら悪感情を抱かれてもそこまで影響はない。


「何はともあれ……行くぞ」


 ヒヅチから始まった全ての因縁を終わらせに。

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