84話 騎士
(ベルクside)
「おそらくドウゲンを倒しに行ったか」
「そんな……」
ヒノワが絶望的な表情で呟く。アメリが動いてからどれだけ経っているかは分からないが今のアメリではドウゲンに勝つのは難しいだろう。
だからこそあの立ち合いで止まって欲しかったがやはり憎悪を抑えるまでには至らなかったか。
「ひとまずは俺達も向かうが安心しろ」
だからこそ、信頼できる者に頼んでおいたのだ。
「考え得る限り最高の護衛をつけてある」
ガルマを召喚しながら告げる俺をヒノワは見上げた。
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(アメリside)
屍骨喰が振り下ろされようとした寸前にドウゲン目掛けて巨大な刃が迫る。ドウゲンは獣のように跳び退くと二人の間を阻むように岩から削り出したかの如き斬馬刀が突き立った。
斬馬刀の周囲が隆起して土の杭がドウゲンを襲う。ドウゲンが後ろに避けながら迫る杭を斬り裂いてる間に抱えられてポーションを飲ませられていた。
「すまない。慣れない道で君に離されてしまった」
高価なものなのか意識がハッキリしてくる。背中に回された腕に安心感すら覚えた。
「間に合って良かった。良く戦った」
そう言って木に寄りかかる様に下ろされると腰に差していた刀を渡してくれる。そして斬馬刀を手にしてドウゲンの前に立ちはだかった。
「後は任せてくれ」
その背中から目を放せなかった。
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(ラクルside)
「てめえ……奴の取り巻きの一人、確かラクルだったか?」
「ベルガ王国の騎士ラクル=ヴァリアント、ミルドレア帝国の要請に応じ黒嵐騎士団に助力している」
「はっ、騎士ってのはガキのお守りまで仕事だとは初耳だな」
ドウゲンが肩を竦めながら挑発する。だが眼は俺から逸らす事も隙を見せる事もなくいつでも動ける態勢を維持していた。
(やはり戦士としてかなりの実力者だ)
だからこそ分からなかった。これだけの実力に加えて戦場での非道なれど有効な手段に撤退の判断の早さは曲がりなりにも将としての器量を感じさせる。
「ひとつだけ聞きたい」
「あ?」
「何故こんな戦い方をする? 貴方は戦士としても将としても優れた能力がある筈だ。なのに何故わざわざ怨恨を残し徒に犠牲を増やす戦い方をする?」
ラクルの心からの問いにドウゲンは当然の事を聞かれたとでも言う表情を浮かべて黙る。そして答えた。
「馬鹿かお前?
「……面白い?」
「ああ、こうした方が俺を殺そうって奴等が多く来てくれんだよ。全員死にもの狂いで俺を殺そうとしてくるのはすげえぞくぞくする。そしてそれを踏みにじるのはすげえ刺激的だぜ?」
「……武人としての誇りはないのか? 他者への敬意は持っていないのか?」
「はははははは! 如何にも三流の屑って感じだろ? は、それの何が面白いんだよ。これが良いんだよ! これを楽しまないのが武人ってなら俺は武人じゃなくて良いね」
……この男が少しだけ理解できた。こいつはなろうと思えば一流の武人になれる才覚と実力がある。だが自らの悦楽の為に悪である事を選んだ男なのだと。
「そうか、安心した」
ザンマを構えて腰を落とす。呼吸を整えて殺気を全開にした。
「心置きなくお前を斬れる」
「へえ……良い殺気じゃねえか」
互いに距離を詰めて武器を振るう。刃の衝突する音が響き渡った。
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