83話 蹴散らされる憤怒(アメリside)
「あー、お前とは初対面だよなぁ? 俺が殺った奴の娘かなんかか?」
ドウゲンは首を傾げながら問いかける。アメリは歯を軋ませて押し込むと刀を振るった。
アメリの鋭い一閃がドウゲンの頬に一筋の傷を作る。お互いに距離を取るとアメリは視線だけで人を殺さんとばかりに睨む。
「白々しい事を言うな! 争うのを防ぐ為にオヅマに赴いた父様を殺すだけに飽きたらず首を送りつけたのはお前だろう!」
「……ああ、お前クノウのガキか」
ドウゲンは今思い出したとでも言うように呟く。やれやれとわざとらしく肩を竦めながら続けた。
「首を送ったのがそんなに気に入らなかったか? あれは俺なりの気遣いだぜ」
「なんだと!?」
「今頃ムドウのおっさんがそいつの死体弄くり回してると思うぜ? 家族の死に顔も知らないままじゃ哀れだと思ったから首だけでも帰してやろうって優しさなんだがなぁ」
アメリは刀を納めると一瞬で距離を詰める。抜き放たれた刀をドウゲンは防ぐが刃の上を滑るように流れたアメリの刀は翻って振り下ろされる。
刀はドウゲンの肩に触れる寸前に踏み込まれる。血が舞うが皮一枚程度に抑えられた事にアメリは歯噛みする。
「お前の親父も馬鹿だよなぁ? どんなに強くても敵地にノコノコ来て呆気なく殺されてんだからよ」
「黙れ! お前みたいな下衆が父様を語るな!」
ドウゲンが刀を掴もうとしたのを避ける為に下がる。再び刀を納めて腰を低く構えると踏み出すと同時に下から上に刀を振り抜いた。
ドウゲンは素早く下がるが胴を斬られて血が舞う。斬られた傷から流れる血がドウゲンを赤く染めていくのを見てアメリは感情のままに口を開く。
「卑怯な手を使って父様を騙し討ちにしたに決まってる! でなければ父様がお前程度に負ける訳がない!」
「はは、油断してなけりゃ勝てるってか?」
ドウゲンは傷に触れながら笑う。だが笑みを浮かべたまま紫の刀身を持つ屍骨喰を構えると……。
「なんで俺がクノウを殺せたと思う?」
空気が塗り変わった。
「小細工なんかしなくても俺の方がクノウより強いからだよ」
ドウゲンがゆらりと体を動かす。風に流れる煙のように揺らめく足取りでアメリとの距離を詰めた。
「っ!?」
真一文字に振られた屍骨喰を刀で受ける。甲高い音を響かせた刃の重さを受け切れずアメリはふき飛ばされる。
「さっきの一太刀はお前が入れたんじゃねえ。俺が入れさせたんだ」
ふき飛ばされ地面に倒れたアメリにドウゲンは容赦なく屍骨喰を振り下ろす。アメリは転がって避けるも続け様に放たれた蹴りが腹を抉った。
「かはっ!?」
「ガキの割に努力はしたみてえだからな。仇に一太刀も入れられませんでしたじゃ可哀想だろ?」
ふらふらとしながらも立ち上がるアメリにドウゲンは上段からの振り下ろしで追撃する。咄嗟に刀で受けるも刀は耐える事が出来ず折れてしまう。
風を斬る音が鳴り響く。アメリの身体中に幾多もの線が走ると線から一気に血が噴き出し力が抜けたアメリをドウゲンは蹴り飛ばす。まともに喰らったアメリは木に打ちつけられて力なく倒れた。
「あ……うぁ……」
「さてと……クノウのガキなら殺すよりあいつらへの交渉材料に使うのが良いか。負け戦だが良い土産になりそうだ」
意識が朦朧とする中でドウゲンの言葉が聞こえてくる。もしこのまま捕まればゴモンが不利な状況になるのは明白だった。
今此処で舌を噛んで死んでも分かる者はいない。ドウゲンに死体を良い様に使われるだけだろう……その結果ゴモンが負けたら? 母様や姉はどうなる? 最悪の未来が過った瞬間アメリは自らの浅慮と愚かさに気付いた。
「う……うぅ……うぁぁぁ」
アメリの眼から涙が溢れ嗚咽を漏らす。仇を討てない力のなさと怒りで先走り家族を危険に晒そうとしている自分の弱さに心を折られた。
「ははははははははは! 良い顔するじゃねえか! 百点満点の反応だぜ!?」
ドウゲンは倒れ伏すアメリを嗤う。心の底から沸き上がる愉悦の哄笑が響き渡った。
「決めたぜ。ゴモンを潰したらクノウの墓の前で母娘揃えて犯してやるよ……まあまた反抗されても面倒だから手でも斬り落としとくか」
掲げられた屍骨喰が妖しく煌めいた……。
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