80話 呪詛


(アリアside)


「焔装展開“情欲の麗焔ルスクディーテ”」


 纏った焔を燃え上がらせて空から迫る飛空兵達を焼き払う。既に数百は倒した筈だけど飛空兵は未だに空を覆っていた。


(厄介だけど、対処できない訳じゃない)


 翼を広げて飛空兵達に向けて飛ぼうとした瞬間、後ろから叫び声が聞こえる。振り返るとどこからか黒い靄が湧き出してゴモン兵が次々と倒れていた。


 良く見ると黒い靄は助けた民達から発生している。だけど兵達と同じ苦しみ様からして民達の意志ではないのは明白だった。


「これは……呪詛だね」


「呪詛?」


 ヒルコの呟きに聞き返す。ヒルコは矛で飛空兵を貫きながら答えた。


「おそらく時間が来たら民達を媒介に呪詛が発動するように仕組んでいたんだ……ここまでするとは思わなかったよ」


「呪詛……セレナなら」


 ヒルコにその場を任せて通信水晶でシュリンに呼び掛けながらセレナの下に飛ぶ。セレナも異変に気付いたらしく民達を中心に結界を貼って広がるのを防いでいた。


「セレナ! 解呪は出来る!?」


「出来るけど……やるには敵を抑えてる結界を解かないと」


「魔物は私達でなんとかするわ。セレナは解呪に集中して」


 私の言葉にセレナは頷くと同時にシュリンが合流する。簡潔に事情を話すとシュリンは頷いて弓を構えた。


 セレナが結界を解くと同時に下がる。私とシュリンは堰を切った様に迫る飛空兵達に焔と疾風を叩きつけた。


 だが後方にいた飛空兵達は焼け落ちた者達を意に介さずこちらに向かってくる。更には少し手前に降りた黄泉兵達が地上から迫ろうとしていた。


(援護が間に合わない!)


 突然の呪詛に指揮系統が乱れた箇所を狙いすましたかの様に黄泉兵が向かう。なんとか止めようと焔を起こそうとしたが……。


「え!?」


 漆黒の軍勢が割って入り。黄泉兵と飛空兵に攻撃を開始した。






―――――


(ベルクside)


 クルセイダーズをアリア達の援護に回して黄泉の獣と対峙する。ずらりと並んだ牙を覗かせながら唸る獣に俺は構えた。


「カカカカ、あの軍勢に手伝わせた方が早いのではないか?」


「あれは人を守る為の力だ。それに奴を倒すなら俺とお前等で充分だろ?」


「然り然り、ではお主の信に答えるとしよう」


 八雷神と話していると黄泉の獣が跳び掛かって前脚を振り下ろしてくる。急旋回して避けると同時に七支刀を雷の刃で伸ばして振り下ろされた前脚を焼きながら斬り落とした。


「―――――――ッ!?」


 斬り落とすと同時に飛び上がって白亜の剣で頭を斬り裂く。そのまま流れる様に闇を纏った脚で裂かれた頭を蹴り飛ばした。


 縦に分かれた頭から黒い液体を撒き散らしながら黄泉の獣は土煙を上げて倒れる。一瞬だけ沈黙が支配するが直後に黄泉の獣から魔力が放出された。


 焼き落とされた部分の肉が膨れ上がって再生していく斬り裂かれた頭も蠢いて繋ぎ合わさると元通りになって再び立ち上がった。


「一筋縄じゃいかない……って訳か」


 俺の呟きに答える様に黄泉の獣は背中の棘を逆立てながら再び迫ってきた。

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