81話 轟雷


 黄泉の獣が背の棘を逆立てる。次の瞬間に棘が一斉に発射されて上から降り注ぐ。


 降り注ぐ棘を避けて避けれないものは剣で弾きながら捌く。地面に突き立った棘は刺さった地点がグズグズに溶けていった。


「毒か」


 棘の雨を潜り抜けて肉薄すると獣は牙の並んだ顎を開いて迫る。急降下して頭の下に回ると白亜の剣を構えて光線を撃ち頭を貫く。


 だが撃ち抜いた直後に横から蛇の顎が迫る。牙に剣と七支刀をぶつけて下顎に足を掛けて喰われるのを防ぐとマントから数十の矢を射出して口内を貫いた。


 顎から脱出すると鉤爪のついた前脚が叩きつけられる。寸前に七支刀を向けた事で前脚を貫きながらふき飛ばされるのを防いだが獣はそのまま俺を地面に叩きつけようとした。


 七支刀に雷を纏わせながら身体を風と共に回転させる。前脚を裂いて飛び上がるも二本目の脚が俺を蹴り飛ばした。


(俺の位置を的確に捉えてる)


 翼を広げて空中で姿勢を直すと獣の身体中にある眼がこちらを向いている。全身にあるであろうあの眼が通常ならば死角になるところを補い相手がどれだけ小さく速くとも捉えられるのだろう。


「あの眼も再生するとなると……方法は限られてくるな」


 再び迫る俺に獣は口から腐毒の息を吐き出す。迫る毒を白亜の大盾から放つ光で弾きながら距離を詰めると光を一層強くして閃光を放った。


 獣の視界が一瞬潰れた隙に七支刀を再生した頭に刀身が全て埋まるくらい深く突き刺す。続け様に鎖を出すと獣の頭に巻き付けて鎖を掴んだ。


 獣が俺を振り落とそうと暴れる。首に乗ると足裏から刃を出して捩じ込む事で振り落とされないように固定する。


 鎖を手綱のように手繰りながら暴れる獣に乗っていると尾の蛇が俺に向かって牙を剥く。吐き出された毒を剣で防ぐと光の斬擊で蛇の頭を斬り落とした。


 すると周囲の肉が蠢いて黄泉兵が現れる。黄泉兵が群がる様に迫ってくるが刃を引き抜いて獣の上で黄泉兵達と斬り結ぶ。


 黄泉兵が突き出してきた槍を身を捻って避ける。刀を振るって首を落とすと鎖を手繰って反対側から向かってきた黄泉兵に巻きつけて動きを封じる。


 黄泉兵を巻きつけたまま幾つかの剣を刺しながら側面を降りる。背後から迫っていた黄泉兵に斧を投擲して上半身を斬り裂いた直後に剣に掛かって張り詰めた鎖が巻きついた黄泉兵を締め上げ絞り切る。


 鎖を使って再び駆け上がると周囲から複数の細長い蛇が身体に巻きついて拘束してくる。再生した尾の蛇が目の前で舌を出しながら睨んできた。


「……睨んでんじゃねえよ」


 鎧から幾多もの武器を展開して拘束を斬り裂く。その中から手にした剣に闇を纏わせて“黒刃嵐舞ストームブリンガー”で目の前の蛇を消し飛ばした。


 再び獣の上に降りると上空に鉛色の雲が集まっていた。それを見て白亜の槍を手に取ると滑るように降りながら脚の甲を貫いた。


 貫いて地面まで埋まった穂先を斧槍ハルバードに変えて固定する。すぐさま離れながら叫んだ。


「八雷神!」


「カカカカ! 黄泉へと還るが良い!」


 獣の頭上の雲から極大の雷が七支刀に向けて落ちる。雷は獣の全身を包んで焼き尽くし、断末魔を上げる事すら許さず呑み込んでいく。


 遅れて戦場に轟く雷鳴が鳴り終わった時には黄泉の獣は消え去り焼け焦げた跡だけが残っていた。

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