73話 求める理由


「カカカカ、意表を突かれて思わずバラけてしまったわい」


 八雷神は浮き上がりながら話し出す。戦う意思はなくなった様で俺も拳を下ろして向き合った。


「見事、実に見事じゃ、我等が雷を超えるどころか一撃を喰らわされたとあっては認めざるを得まい」


「なら……」


「うむ、じゃがひとつだけ問わせてもらおうか」


 八雷神はそう言うと俺を向き直る。眼窩に宿る鬼火が俺を試す様に揺らめいた。


「何故力を求める? それだけの力を宿しながら更なる力を求めて何を成そうとしている? 世界を統べる覇者にでもなろうと言うのか?」


 八雷神の問いに俺は一瞬だけ沈黙する。自分の心臓に手を当てながら意を決して言葉を紡いだ。


「確かに俺は強くなった。世界を敵に回しても勝てる算段を立てれるくらいにはな……だけどそれで満足して立ち止まる訳にはいかない」


「……」


「今の強さに満足してもう充分だなんて言えるほど俺はまだ生きていない。俺より強い奴なんていないなんて言えるほど俺は全てを知ってる訳じゃない」


 自分の中にある想いを言葉にする。八雷神だけでなくセレナ達も結界を解除して聞き入っていた。


「今の強さに満足して立ち止まったら……俺より強い奴が現れた時にどうなる? 俺がこれまで手に入れてきたものも、得てきた大切な繋がりもなくなってしまうかも知れないのに立ち止まって驕る馬鹿にはなりたくない」


 なによりも……。


「託されたものを、譲れないものを貫き通す道を他でもない自分で選んだ。それには力も強さもどれだけあっても足らないものなんだよ」


 俺は死ぬまでその道を歩き続ける。憧れに別れを告げたあの日にそう誓ったから……。


「クク……やはり違うな」


 俺の答えを聞いた八雷神は笑いながらそう告げる。そして一斉に笑い声が響いた。


「カカカカ! 世界を滅ぼせるだけの力を得てまだ足りないと言うか!? なんという強欲! 己の大切なものを護れるだけの力があれば良いと言っていたタケトとはまるで違うのう!」


「そうじゃそうじゃ! あやつと比べれば利己的で欲望に忠実じゃな!」


「だがそれが良い! 誰かの為になど上辺だけの綺麗事を吐く阿呆よりはずっと良いわ!」


「お主の欲の果て! お主の道の道中は面白そうじゃのう!」


 八雷神は再びひとつとなって目の前に立つ。鬼面の口を吊り上げさも楽しみだと言わんばかりに告げた。


「良いじゃろう! 我等八雷神、お主に使われてやろうではないか!」


 言うや否や八雷神の身体は一条の雷となって石に突き刺さった小刀に向かう。刀身に吸い込まれる様に入ると雷光と共に小刀が剣へと姿を変えていく。


 姿を変えた剣が飛んできて思わず掴みとる。それは軸となる剣身に枝の様な七つの刃がついた……七支刀に似た異形の剣だった。

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