66話 朽ちた里


 セレナ達のお蔭で山は浄化された。だが毒によって蝕まれた痕は残っており毒に侵された範囲の草木は枯れ里も人が住んでいたのが分かる程度の残骸しかなかった。


 唯一残っていた岩のドームの中には何もない。おそらくフィフスにザンマを奪われない為に己ごと閉じ込めたガンザの息子のものなのだろう。


 「……調べるのは明日にしよう。ひとまずついてきてくれ」


 「セルク?」


 ラクルが疑問の声を上げるのに構わず里を出る。ラクル達は首を傾げながらもついてきてくれている。


 里から少し離れた所に開けた場所がある。そこにはふたつの小岩が立てられいた。


「これは……」


「ガンザさんの息子とその奥さんの墓だ」


 おそらくガンザは毒に侵された里に二人を埋葬したくなかったんだろう。だから里から離れたこの場所に二人を埋葬して墓を作った。


 毒があそこまで広がってくるのは予想外だったのだろう。里だけでなく山全体に影響を及ぼすほどの毒など早々あるものではない。


 「だけど毒は取り除いた。眠るなら里の中の方が良いだろう」


 俺は墓石に手を合わせてから地面を掘り起こす。ラクル達も手伝ってくれたお蔭で下にあった二人の遺骨を見つけられた。


 遺骨を持って里に戻り岩のドームに入ると二人の骨を埋める、そしてラクルに墓石代わりの岩を幾つか立ててもらって表面に名前を刻んでいった。


“戦士ガンザ 息子ガイ 娘ヒノリ 此処に眠る”


 全ての墓に名を刻み終えると全員で手を合わせて冥福を祈る、するとカオスクルセイダーから闇が溢れてそれは二人の人の姿になった。


「っ、ガンザさん!?」


 ラクルが声を上げるのも無理はない。姿こそ影法師の様に漆黒に染まっているがガンザと同じ姿をしていた。


 もう一人はガンザに良く似た体格の良い男だった。カオスクルセイダーを通じている事は知ってはいたがこうして会うのは初めてになる。


 「お久しぶりですガンザさん、それと初めましてになりますね……ガイさん」


 俺がそう言うと二人は頷く、そして声が響いてきた。


 ―ありがとう、これでヒノリも皆も眠りにつける。


 ガイの言葉に俺を始めセレナ達も胸を撫で下ろす。そしてガンザはラクルを見ると言葉を紡いだ。


 ―ラクル、ザンマを託すに相応しき良い戦士となったな。


 ガンザの言葉にラクルは涙を堪えながらも頭を下げる。ガンザは俺に向き直るととある方向を指で示した。


 ―社の奥に岩戸がある。お主ならば開けられる筈だ。


「岩戸……」


 ―我等の魂、お主の生涯と共に往こう。


 そう言い残すと二人の姿が崩れてカオスクルセイダーへと戻っていく。なんとなく重さが増した様に感じる剣に触れながら呟いた。


「来た意味はあったな」


「ああ……」


ラクルは涙を拭うとザンマを握る、そして決意を込めた眼で墓前に誓った。


「改めて誓います。俺は貴方達に恥じない騎士となる事を……ザンマに相応しき者としてあり続けると」


 誓いを捧げるラクルの姿を見て思う。この里は確かにフィフスによって滅ぼされたのかも知れない。


 だがこの里が紡いできた全てを滅ぼされる事はなく俺やラクルに引き継がれた。それを成し遂げた人の強さをこの里に来て改めて認識できた……。

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